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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第12章 兎達の戦い

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200/385

最後の小瓶

クーアではなく、コレリック目線です。(誰それ?)


200話まできました。

人気作でもない趣味と愚痴(笑)の物語を読んで下さる方々に感謝を。


「コレリック、コダルドの両100人小隊長は早急に事態の鎮静化を図る様に。以上。」

軍務上級司祭に命じられ、聖都西南の森を包囲してから10日。

未だに脱走兵1人捕らえられずにいる。


今から14日前に、内務省軍が薬物の密売人の摘発を行った。

摘発自体は成功し首謀者の女とその一味の首は広場に晒されている。


だが、そこで捕らえられ拷問にかけられた若い男が処刑前に「内務省の密偵を廃人にして娼館に売った」と自白したのが問題になった。


保護された密偵の身分証を使い、第2傭兵隊の脱走兵が聖都から出たのだ。

もし、内務省が事態を把握し脱走兵を捕らえ、密売犯と軍務省の繋がりなどを自白させたら大変な事になる。

内務省の拷問は白を黒にも赤にも変えると言われているのだから。


最初は軍務省、脱走兵回収班10名が極秘裏に回収に向かった。

身分証を使ったのが脱走兵(クーア)と特定したのが脱走兵回収班だったからだ。

「この似顔絵って、クーアちゃんじゃん」


「最近逃げたって、聞いて楽しみにしてたんだよ。同僚だった時から1度、相手にして見たかったんだ。」


同じ軍務省に、こんなクズ部隊があるのか?と最初、驚きはした。

ただ生死を問わない回収率が100%近いと知り、必要悪と割り切ったのだ。


が、彼らは帰って来なかった。

どんな魔術を使ったのか?

彼らは逆に全員死体となって回収されたのだ。




「第6.第7分隊の8名が負傷。2名死亡」

また突入に失敗した。

これで4度目だ。


「隊長、これで死傷者が20名を超えました。部下達が怯えて使い物になりません。」

副官が報告だか、愚痴だか分からない発言をした。


本来、注意すべきなのだが、士気をこれ以上下げない為に我慢をする。

従軍司祭に負傷者を治療させる様に命じて、副官に尋ねた。


「第2小隊はどうしている。」


「森の南側を包囲するだけで、動きはありません。」

あの小僧何を考えてるんだ。

何か策があるにしても、先任の自分に相談あるべきだろう。


「コダルド隊長に会ってくる。」

自分より10 歳は若いが同格の小隊長。

そのエリート(づら)を思い浮かべながらテントを出た。



「コレリック第1隊長がお見えになりました。」

奴の副官がテントを開けながら内に告げる。

見るとコダルドの奴はヤスリで爪の手入れをしながらお茶を楽しんでいる。

カチンときた。


「貴様、何をしている!」


「見ての通り、脱走兵クーアを捕らえる為、尽力していますが?」

爪の手入れをし、茶を飲む事のどこに尽力があるのか。


「包囲から10日、貴様の兵は森を囲むばかりで1兵も突入してないではないか!」


「それは、そうですよ。私は、こう見えても部下想いですからね。」

奴は私に席を勧め、副官に茶のお替りを頼みながら話す。


「森を焼き払って良いか上申して、返事待っているところです。」

昨今、薪が値上がりし、森の不法伐採を取り締まっている時にコイツは何を話している?


「魔術師1人に貴様は何を言ってるんだ?」

情報に誤謬があったか?

我々の相手が魔獣ならまだしも。


「おや、ご存知ない?戦場魔術師のクーア。以前は[雪原の雪兎]と呼ばれた暗殺者ですよ。」


「雪原の雪兎?」

確か軍の高官を次々と暗殺した少女の二つ名として、昔聞いた事がある。


「そう、それが暗殺しようとした第2傭兵隊の将軍に捕まり、何故か処刑ではなく、魔術師ギルドに入れられて成長したのが、戦場魔術師のクーアです。」

伝説の傭兵隊長にして第2傭兵隊の将軍。

すでに引退し、顧問として余生を過ごしていると聞いた。


「そんな話は聞いてない。そんな腕利きなのか?」

考えて見れば脱走兵1人を兵200で捕らえるのはおかしい。

だが……馬鹿な。


「正面から戦えば一般兵にも劣ると軍の書類にはありますよ。ただ森や暗闇に紛れる能力は天才的。[雪原の雪兎]の二つ名は伊達ではない様です。」

従卒が、お茶を持ってテントに帰ってきた。

自分と奴の前に置かれる。


「我が隊の練度で森で待ち伏せしてる潜伏のプロには勝てません。兎を穴から追い出す必要があります。」




翌日、その馬車は僅かな護衛と共に現れた。

馬車中からは1人の老人が現れる。

片脚を引き摺っている以外は現役の戦士の風格を漂わせているが、この老人があの伝説の傭兵隊長なのだろうか。


「将軍。御足労いただき申し訳ございません。」

いつの間にか現れたコダルドが老人を案内している。

やはりそうだ。

彼が伝説の傭兵隊長なのだ。


ついて来た魔術師が[拡声]魔術を用意している。


「聞こえているかクーア。いや[雪原の雪兎]」


「聞こえています。将軍。今更何の用でしょう。」

若い女の声が返ってきた。

しかし何処にいる?

居場所が分かれば突入させるのだが……。


「雪兎。何故、儂との約束を破った。暗殺者など辞めたい。陽の元を歩きたいという、お前の望みを叶えたではないか。」


「嘘を言わないで下さい。私の望みは叶ってなどいません。貴方が言う様に軍人にはなりましたが、やらされるのは汚れ仕事や公表出来ない任務ばかりです。陽の元を歩ける様には結局ならなかった。」


「それでも、孤独に闇を歩んでいた、お前にも仲間が出来ただろう。人には言えずとも世の為、人の為になった事があるだろう。」


「世の為、人の為になった事は全て貴族の、司祭達の手柄になりました。今回の[石化病]の治療法を持ち帰ったのだって[茶色い雪兎]の使えないとされた仲間は消され、聖騎士見習いを聖騎士にする為の手柄になる予定です。」

女の声が叫ぶ。


「そう、共に歩んだ仲間は皆死ぬか、居なくなった。共に魔術を学んだチシナは行方不明。恋人になったトロイは死に、恩人の司祭プロメスは自害して果てた。裏切り、謀略、もう沢山だ。」


「女の居場所が特定出来ました。」

コダルドの副官が小声で囁く。


「投降しろ雪兎、今なら儂が何とかする。」

将軍が呼びかけるが、それと被せてコダルドが叫ぶ。

「脱走兵はあそこだ。全軍突撃せよ!」


「待て、コダルド。儂の話は終わってない!」

将軍の叫びを奴は無視した。



「無力な兎と侮ったか。舐めるな!」

[高速詠唱][黒沼変化][火球雨](使5残3)

突撃をかけた兵の足元が悪臭を放つ黒い泥沼に変化する。

そして動きの鈍った兵に小さな火球が降り注ぐ。


「グゥアァァァァ」

「熱い、アツィア」

「燃える、消えない、消してェー」

驚いた事に黒い泥が激しく燃える。

そして泥と共に兵も燃え、死んでゆく。


[舞踏短剣](使1残2)

飛翔して来た3本の短剣が宙を踊る様に舞う、そして無差別に兵の喉を切り割く。

ゴーレム術式の応用で飛翔する剣があるが同じ原理か?

「これが戦場魔術師……」

コダルドの副官が呟く。



その後、コダルドは犠牲を無視して再度全軍突入を命じた。


罠や簡易ウッドゴーレムなどで更に犠牲を出したが一刻半後、戦闘は終結。


ただ犠牲は大きく、あたりが静かになった時にはコダルド隊は半数以上が死亡、コダルドも戦死していた。


雪兎(クーア)は森の奥の開けた場所で毒と思われる小瓶を飲み干し倒れているのを発見。


我が小隊は生き残りを収容、死体を回収し、失意のうちに聖都に帰投する。

将軍は、いつの間にか姿を消していた。


今回の件は公式記録には残らないそうだ。

B級映画だった一作目のランボー。

好きなんですよ。

命懸けで戦い、国に帰りたいと言って死んだ戦友を何人も見送り、何とか生き延びて帰ったのに、国に帰ると馬鹿にされ、職も無く、浮浪者と蔑まれるランボーの叫びが。


私の黒歴史がまた1ページ

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