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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第12章 兎達の戦い

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英雄

[薬学日誌]には未掲載です。

朝目覚めると、相部屋だった3人組の女性冒険者達は既に出かけていた。

一晩休み、魔力は回復したが状況は困難だ。

ロカは大地母神に祈りを捧げている。

私としたことが、少し寝過ぎてしまったらしい。


「うなされて、おられましたよ。」

ロカに指摘される。

いつもの事だ。

死んだ仲間や殺した敵が夢に出てきて、まだ来ないのかと囁いてくる。

この分ではそう遠くなく私も夢の住人になるだろう。


「少し疲れていた様です。ロカは眠れましたか?」

ロカは首を横に振る。


「先生やパトリが心配で……」


「魔術師や神官、司祭は何があっても眠れなくてはなりません。それが仲間を守る事になるのです。」

ロカは素直に頷く。


そういえば、ハイレンは眠れる様になっただろうか?

あの生真面目な従軍司祭に汚れ仕事を強いたのは私のミスだ。


「先生は貴女から魔術も学ぶ様にと話していました。」

そう言った後、少し逡巡を見せたが尋ねてきた。


「その……[英雄]って何ですか?」



[英雄]

先輩魔術師や同業者から聞いた事がある薬だ。

約20年程前に冒険者の間で大流行し、その依存性や禁断症状で大きな問題になった薬物。


元々は芥子珠薬を改良し出来た咳止めだったのだが、それを使うと恐怖が取り除かれヒーローの様になれることから英雄ヘロインと呼ばれる様になった薬。

作成には[成分抽出]等の魔術処理が必須で、レシピや製造元は不明とされていた。


当時それを密売する盗賊ギルドと被害を受けた冒険者の店ギルドが全面抗争になり、王国の治安機関も巻き込んで凄惨な争いになったという。


結局、ある時を境に供給が途絶えた為事態は治まったが、後遺症で廃人になる者、治安の悪化など聖王国に大きな傷を残した。



「そんな恐ろしい薬と先生にどんな関係が……」

私の説明を受け、ロカが改めて訊いてくる。

いや、ロカにも分かってはいるはずだ。

ただ、はっきりさせたいのだろう。

意志の強い娘だ。


「ムゲットメモには[英雄]のレシピの他に、弟子が起こした不始末の詳細が書かれていました。開発製造していた弟子は服毒自殺し、それを唆し多額の利益を手にしていた弟子クレオは破門されました。」


「ただ同時期ムゲット自身にも内務省暗殺者の手が迫り、国外逃亡を余儀なくされた為、ムゲットメモは此処に残された様です。クレオは、それを手に入れて保管していたのでしょう。」


ロカの顔色は悪い。

「……先生はスラムの住民の為に色々苦労されて……」


「先生のスラムを改善したい気持ちにウソはなかった……」


その点はムゲットメモにも書かれていた。

クレオは、その多額の利益を自分の為に使う事はなくスラムの環境改善や盗賊ギルドへの便宜の見返り、内務省への折衝(ワイロ)に使っていた様だと。

(因みに当時の内務省の折衝担当の名前と今の内務省副大臣の名前、家名は一致している。)


研究書の[薬学日誌]とは違い[ムゲットメモ]に入っている秘密は薬に関してだけではない。


ロカが泣き止むまで待って、私は話かけた。

感傷に浸るロカを現実に引き合わせるのも私の役割だろう。


「ところでロカ、持ち合わせはどのぐらいありますか?」

私には銀貨5枚と銅貨数枚残るだけ、これからの計画を立案するのに資金が知りたい。


「逃げる前に先生が銀貨を一掴み袋に入れてくださいました。」

数えると銀貨28枚。

これならロカだけなら手はある。


「逃亡の算段をつけて、明日にはここを出ます。先ずは朝食を取りに下に降りましょう。」

私達は食堂に向かった。



少し遅い朝の食堂は、それでも混雑していた。

サービスの朝食を頼みカウンター席に座る。

そして食事をしていると、主人が話かけてくる。

「詮索しないのが、商売上のマナーなんだが……。」

そこで主人は、ひと呼吸置いた。


「アンタらは内務省の探している薬の密売人じゃないよな?」


「あら?そんなヤバそうな連中に見えます〜?」

もう照会が来ている。

内務省にしては仕事が早い。


「この商売をしていると、ヤバい奴らは何と無く臭いがするんだよ。アンタらは、いやアンタはヤバい感じがする。」


「それは遠回しに湯を使えっていう、営業ですか?これでもレディの嗜みで臭いには気をつけてるんですけど。」


混ぜっ返すと、主人は笑って誤魔化す。

「大桶一杯の湯なら銅貨2枚だ」

冗談として、返してよこしたが目は笑っていない。

これは急がないといけないだろう。


「結局、昨日の捕物はどうなったんですか?」

ロカが主人に尋ねる。


「若い野郎の首がいくつか朝から南大広場に晒されてるよ。」

聞いておいてロカは露骨に動揺した。

だが責める事は出来ない。

ロカには腹芸が出来る経験はないのだから。


「まぁ怖い。そんな連中と同じく見られるなんて、ご主人どういうつもり?」

白々しいが怒ってみせる。


「いや、悪い。ホットエールを奢るよ。」

主人も白々しく応じた。

後で偵察兵らしい小男が黙って席を立つ。


歩き方からして傭兵だろう。

このまま居れば一刻後には脱走兵収容部隊の連中がくる。

前に狩る方で参加した事ある部隊だが、私も含めて最低な連中だった。


随分追っ手が増えた。

軍務省に内務省そして盗賊ギルド。

今日は長い1日になりそうだ。

ダメ!絶対!

麻薬は使用も所持も犯罪です。

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ヘロインがヒーローが語源は事実です。

ヘロインは当初製薬会社が咳止めとして発売していました。

ちなみにモルヒネは眠りの神モルヒィスが語源です。


モルヒネは医薬品として残っていますが、ヘロイン非合法品しかありません。


私の黒歴史がまた1ページ。

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