暴力
気分の悪くなる描写があります。
ご注意下さい。
[英雄]は次回です。
半刻もしないうちに砂漠に倒れこんでいるダークエルフの少年とその傍らに控えるトロールに追いついた。
トロールは近づく私達を見ると少年から離れてゆく。
「[ブライ怪我酷い。治癒魔法必要。]」
トロールが話かけてくる。
「[助ける、仲間。殺す、諦める。俺離れてる。]」
「こいつは何を話してるんだい?」
フィーバーが聞いてくる。
「この少年を助けるには治癒魔術が必要で、助けるかの判断は任せると話してます。」
トロールのエルフ語を通訳する。
「伝えてあげなよ。死なない程度に癒やして尋問するって。その後は私の玩具になっちゃうけどって。」
ギフト……。
私を何だと思っているのだろう。
トロールには取り急ぎ傷の様子を見ると伝えた。
ブライと呼ばれた少年の背には矢が刺さっている。
アロマに手伝わせ傷を開き矢尻を抜き
、治癒魔術をかけた(使1残3)。
致命傷ではないが、傷を治しきるには再度治癒が必要な怪我だった。
「[名前と所属は]」
私は本音ではもう一度治癒をしたかったが仲間の目が、それを許さない。
「[ブライ。モース里のブライ。ウルガ族]」
後手に縛られ苦痛に顔を歪めている。
ペティ君に似た感じの可愛い少年だ。
「[旅の目的は]」
「[バジリスクサボテンを[時間圧縮水晶]に封入して持ち帰る事。]」
「[バジリスクサボテンを何に使うつもり?]」
「[……]」
質問に答えない。
その様子を見てフィーバーが背中の傷口を蹴りつける。
呻き声を上げて苦しむブライ君。
「耳を削がれたくなきゃ喋れと伝えな。アロマ、ナイフを準備しなよ。」
アロマが青い顔をしながら、ナイフを準備する。
「[正直に喋って。そうしないと耳を削がれてしまう。]」
「[話しても、どうせ嬲り殺すつもりだろ?]」
「[正直に話せば、そんな事はしない。条件次第では自由にしてもいい。]」
「[自由?金も水もなしで砂漠に放り出されても、嬲り殺しと変らない。手を汚さない分、そっちは気が咎めないだろうけどね。]」
「ハイレン。一応訳しておくれよ。」
「砂漠に放り出すなどされず、助命すると約束して欲しいと訴えてます。」
「なるほどねぇ。坊やは命が惜しいわけだ」
もう一度フィーバーが傷口を蹴る。
傷口が開き出血が再開した。
私が、もう一度治癒を使おうとするのを
止められる。
「坊や、ふざけてないで質問に答えな。血が足りなくなるよ。」
「[質問に……]」
「訳さなくて良いよ。この坊やは人間共通語が分かってる。耳を削ぐって言った時に反応みせてたからね。アタイはふざけた冗談は嫌いなんだよ。」
更に今度は腹を蹴る。
「腹筋が足りないねぇ〜坊や。優しい従軍司祭様の治癒が間に合ううちに……。」
また蹴る。
今度は胸、骨が折れる嫌な音。
「喋るんだよ!」
ブライ君が咳き込む。
肋骨が完全に折れているだろう。
「フィーバー、死んでしまいます」
流石に抗議した。
ギフトはあたりを警戒するフリをして離れているし、アロマは目を背けている。
「そんなヘマはしないさね。だが、まぁそうだねぇ。1度治癒してやりな。」
私は再度治癒魔術を掛ける。
聖力の残りは2。
背中の出血を先に止めたが完治には遠い。
「素直に話すんだよ、坊や。耳や歯はあった方が便利だろう?」
アロマからナイフを受け取りフィーバーが再び近づく。
「バジリスクサボテンで何する気だったんだい坊や。」
「そ、育てて売るつもりダった。モースの里は野菜とか育てる魔法技術はあるガ貧しい。僕ガ派遣されるグらい戦える人数も居ない。」
訛のある人間共通語で懸命に話す。
顔には暴力に屈した悔しさが滲む。
「じゃあ、その筒はなんだい?妖魔の新兵器なんだろ?」
「これはオルガ族ガ、ヲタク工房に造らせた火打石式の試作品を貰った。姉がオルガ族に嫁いデるから。火縄持ち歩かないブん携帯しやすい。」
やはり試作品だった。
見た所、石弓の様に[威力はあるが使い勝手悪い武器]を押し付けられたのだろう。
「あのトロールは?」
「名前は[第3クオーター]。契約魔術デ契約しているガ[対等契約]ダから自由に動かせる訳ジゃない。」
「魔術が使えるのかい?魔力はいくつだい坊や。」
「魔力は6ダけド契約魔術で4は固定消費しているから実質2」
「そうかい。じゃ最後だ坊や。死に方を選べるなら、斬殺と絞殺どちらが希望だい?」
「…………。」
「おや?また黙りかい?坊やは痛いのが好きなのかねぇ。」
胸ぐらを掴んで持ち上げる。
「待ちなさい!フィーバー。もう見てられません。彼は全て話ました。彼が自身の神に誓って服従を誓うなら[茶色い雪兎]隊長の命で投降を許可します!」
ついにアロマが切れた。
抜剣しフィーバーに近づく。
フィーバーもブライ君とナイフを投げ捨て大剣を抜く。
「ハイレン、彼を治癒しなさい!」
私は詠唱を始めた。
「そしてフィーバー、貴女は大剣を収めなさい!今なら、上官反抗罪にせず許します。」
ギフトが投げ短剣を構えている。
どちらに投げる気だろう?
2人は、しばらく睨み合う。
「……、わかったよ隊長。ちと調子に乗りすぎたようだよ。すまなかったねぇ」
フィーバーが先に武器を収める。
アロマも武器を収めたが汗が滴り落ちている。
少しだがリーダーを見直した。
ブライ君は服従を誓い投降してくれた。
ブライが最初沈黙したのは貧しい部族を恥じたからです。
現場のベテランパートと雇われ店長の対立。
旗幟を不鮮明にして立ち回るの厳しかったなあ~。
私の黒歴史がまた1ページ。




