1日
買い占めと転売。
なかなか対策は難しいです。
朝
目が覚めると魔力は完全に回復していた。
昨日は[ムゲットメモ]を途中まで読み夕食を取って休んだが、哀れな内務省工作員の言う[もう一つ秘密]を知る事は出来なかった。
ただ人に読ませるつもりの[薬学日誌]と違い、ムゲットの生の声が綴られているので読んでいて分かりづらいが面白い。
ムゲットには5人の弟子兼助手がいたようだが、それぞれの評価や得意分野が書いてあった。
クレオについては[神官の適性はないが、薬師としての適性あり]とあったので弟子だったのは本当らしい。
「魔術師、飯だ。」
パトリがパンにハムなどを挟んだ朝食を持ってきた。
「まだ臭えな。まぁお前も芥子珠中毒になりたくなきゃ、ボロ出さねぇ様に気をつけるんだな。」
外にはパトリと同じぐらいの少年が数人待機している。
「井戸から水を汲んできて良いですか?」
「あぁ、構わねえ。ただオメェの言う事が嘘じゃなきゃ、ヤバい水だ。」
この聖王国の王都の井戸は河から引いた水を樋に通して井戸に導いている水道だ。
このあたりは掘って水が出る地層は少ない。
私は小さな壺を持って井戸と、この小屋の水壺を行き来した。
[液体沸騰](使1残7)
最後に水壺の水を魔術で沸騰させ、その湯をカップに取り食事を始めた。
「魔術ってのは便利だな。」
確かに火を焚かなくても湯が出来るのは旅の途中などでは重宝するが、魔力にも限りがあるので手放しで便利とは言えない。
「そういえば今日の昼、王城から[石化病]についてのお触れが出るって話だ。まぁ、どうせ俺等には関係ない話だろうがな。」
「後、お前さんは、ほとぼりが冷めるまでこの地域から出る事を禁じるってよ。ポピの命令だ。」
大体想定通りだった。
それにどうせ何日かは、軍務省も私を探しているだろう。
「承知しました。ただロカにエルフ語教える様に言われてますから、ロカのスケジュールだけは、教えてください。」
「今日はクレオの手伝いしてるから、ここには来ねえよ。昨日かき集めてきた材料で薄力毒消し粉作るんだとよ。」
どうやら今日は[ムゲットメモ]を読む時間が出来そうだ。
昼
緊急事態省は[石化病]が魔族が開発したバジリスク由来の毒による物であると発表。
それを至高神殿と協力して突き止めた大地母神の上級神官[鈴木冷夏]を聖女に認定するとした。
そして[聖女の丸薬]や上位神官の奇跡により、[石化病]が治療可能である事。
水道井戸の水を飲む時は必ず一度沸騰させる事も合わせて発表された。
「いやぁギリギリだったねえ。現在毒消し粉は薄力、中力、強力、全部品切れ。薬問屋や薬師ギルドは内務省軍が取り囲んで近づけないよ。」
昼過ぎに尋ねてきたクレオが状況教えてくれる。
「今日はアタイもロカも薄力毒消し粉造りで忙しいから、ムゲット先生のメモを読んでおいとくれよ。使えそうなレシピあるだろうし、作成に魔術が必要な物もあるはずなんだ。」
私も薄力毒消し粉造りの手伝いを申し出たが、それよりも覚え書きの内容確認を急いで欲しいと言われた。
夕方
夕食を運んできたロカに[魔導転写]で写した[ムゲットメモ]を渡した。
ただし、メモから1枚だけ抜け落ちた不完全版だ。
ムゲットメモを読み、私も内務省の工作員が知った秘密を知った。
その秘密とは[英雄]だった。
ムゲットの5人の弟子のうち2人は内務省に暗殺され、1人は国外に逃亡し行方不明。
残る2人の内1人は毒を飲み自害し、もう1人は破門された。
そして破門された弟子がクレオなのだ。
その転写しなかった1ページにクレオが、魔術師を必要とする理由と[英雄]の秘密が書かれていた。
夜
ポピとクレオに簡易神殿に呼び出された。
呼び出されたのは私だけではない。
ロカとパトリ、またパトリの取り巻きたちも呼び出された。
どこからか薄力毒消し粉を使った[クレオの丸薬]にも軽度の[石化病]を治す効果がある事が漏れたらしい。
大地母神の簡易神殿に行列が出来ており、1粒銀貨1枚の暴利で、1人3粒までの制限をつけても飛ぶように売れてゆく。
「用意してた3000粒、この分じゃ1刻持たないね。こんなに銀貨見たのはムゲット先生が居た時以来だよ。驚いたね〜。」
「じゃが、クレオ。失敗じゃ。この騒ぎでは、じきに兵が来るじゃろうな。」
「材料費を引いた利益はギルドへの上納金含めて折半。アタイらは今夜の内に、ねぐらを移すよ。」
ポピとクレオが話を進めている。
どうやら、また逃げる事になりそうだ。
「内務省治安部隊である!貴様ら!動くな!」
怒声が聞こえる。
[照明弾]×3
スラムの広場が明るくなり内務省軍が雪崩れこんできた。
わかる人にはもうネタバレしてますね。
私の黒歴史がまた1ページ。




