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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第12章 兎達の戦い

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砂漠の旅

自分では無自覚の内に進行する熱中症の怖さ。


チシナが死んだ夜以来、アロマも夜営の手伝いをする様になったし、夜衛に立つ様になった。

街でも貴族である事を隠し、理念を説いたりもしなくなった。


今、[茶色い雪兎]の実質的リーダーはフィーバーだ。

アロマは傭兵隊の新兵の様に扱き使われている。

今、[茶色い雪兎]はニキアの街を過ぎ、オアシス沿いに、旧レパタの街に向かっている。


「今日も暑いねぇ、風も酷く乾いてるし、夕方にはオアシスのある村につくんだろうね?」


「サンドリザードマンに騙されてなきゃ着くはずだよ」

ギフトが投げ遣りに答える。


アロマはニキアで購入した水を運ぶラクダの世話に忙しい。

無事連れ帰れば購入金額の8割で買い取りされる約束だからラクダは大切に扱わなくてはならない。


「フィーバー、ニキアの街で聞いたダークエルフ隊の噂が気になります。」

実戦経験は豊富でも、知識や知恵に欠けるフィーバーを補佐する役を私はしている。

ニキアの街で聞いた噂では我々と同じ目的でダークエルフに率いられた妖魔一行が旧レパタの街に向かったらしい。


「なんだって妖魔達がバジリスクサボテンなんか欲しがるんかねぇ?奴らの所にもバジリスクが出たのかい?」

先日の歩き巫女アヤメの講義はフィーバーも理解している様だ。

ほんの一時学んだだけだが、アヤメの師であるケリー先生の講義はわかりやすかった。

弟子のアヤメは講義のわかり易さまで、しっかり受け継いでいる。


「軍事利用する為じゃないかと思います。」

私はニキアの街の神殿で聞いた話をそのまま話す。

ダークエルフの部族の中には魔獣や妖魔を手懐けるのに長けた一族もいる。今までは、自らが[石化病]になる恐れからバジリスクは利用されていなかったが、治療薬が有れば軍事利用する事が可能になるはずだ。


「ダークエルフも弱小部族は大変だねぇ。」

今度はフィーバーが投げ遣りに返してよこした。



私が学んだエルフと袂を分かったダークエルフの主な部族は3つ。

英雄リューリュ率いるアルガ族。

そのライバルのオルガ族。

上記2部族以外の弱小部族が連合して名乗るウルガ族。

裏仕事や冒険者などしているのは大抵ウルガ族と聞いている。


ちなみにエルフ側に残った主部族はエルフの森のエルガ族とエルフの森以外に住むエルフの総称イルガ族。

因みに前にいたローエルフは

[プラティーン・ムッカ・イルガ]

と軍の書類に書いてあった。

何代か前の祖先が魔族に南の島を追われ聖王国近郊に移住したと言うが、自らの部族でなく王国に仕えるエルフは珍しい。


「プラティーンの事だから、飲みすぎて部族から追い出されたんだよ。」

当時ギフトが笑いながら話してが、ローエルフと旅をしたのが、随分前に感じられ何故か寂しさを感じる。



「競合の妖魔隊よりさ、サンドチューリップとか土着の妖魔の方が怖いよ。妖魔隊は大半ゴブリンだろうからさ。」

ギフトが、いつの間にか隣で話しかけてきている。


「ハイレン?ボーっとしてた?遠慮しないで水飲まないと死ぬよ。」

いつの間にか思考が飛んでいた。

どうやら熱に当てられていたらしい。

慌てて水袋から水を飲む。

皮の味が移った生ぬるい水は不味く潤った感じがまるでしない。


「魔術師を失ったのは痛いねぇ。「[液体冷却]が有れば大樽の1杯の冷えた水が出来るのにねぇ。」


「フィーバー、思い出して辛い」

ギフトが突っ込みを入れるが、思い出したのはチシナの死か?冷たい水か?

私には判断出来なかった。



夕方

サンドリザードマンの話通りオアシスが見えてきたが、入る事は叶わなかった。

オアシスの周りに[レパタの民]の軍旗が翻っていたからだ。


[レパタの民]は魔王戦争初期に[冠の魔王]の大魔術で滅んだ西方三王国の一つレパタ王国の生き残りを自称する部族。

オアシスを巡回し、税と称する見ヵ〆料を聴取して廻る。

やっている事は盗賊団や食い詰め傭兵団と変らないが取り締まる公権力の無い砂漠では大手を振って歩いていた。


「砂嵐みたいなものでス。ほっとけば通り過ぎまス。一応オアシス間の交易を請け負ったりしますしネ。ただ余所者にはタダの盗賊ですから気をつけテ。」

ニキアの街のサンドリザードマンの商人が話していたが……。


「ツイてないねぇ。まぁ方針は3つだね。どの選択も厳しいが検討しようじゃないか。」

道から少し離れた岩場で夜営をしながら検討する事になった。

この世界のエルフは共和制です。

なのでエルフの王族とかは存在しません(笑)


ダークエルフは部族社会ですが、王を自称する個体がいないので、やはり王族はいません。


私の黒歴史がまた1ページ。

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