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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第12章 兎達の戦い

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白湯

雨が降ると臭いが流れるので、追跡に犬は使えません。

小雨が降る中、案内されたのは小さなテントを中心にした広場だった。

広場の周りを粗末な小屋が、ぐるりと囲んでいる。


「中央が大地母神の簡易神殿だよ。アタイのねぐらはこっちさ。」

テント横の小さな小屋に通された。

中には調合道具が所狭しと置いてあり、干してある薬草から、独特の臭いが漂っている。


「クレオ先生、早くその女から[聖女の丸薬]とやらのレシピ聞き出そうぜ。」

小屋の中に最初の少年と天恵持ちらしい少女が付いて来ていた。


「パトリ、慌てなくてもクーアは逃げやしないさ。」

クレオは火を起こし、鍋で湯を沸かしながら、ゆっくりと腰をおろした。


「さて、湯が沸くまで1つ確認したいんだがさ、ロカが真実がわかるのに気付いて喋ってただろう?なんで分かったんだい?」


「以前、似た感じの天恵持ちと仕事をした事があります。そして少年が喋る様に仕向けてたから気づきました。」

やはり、正直に話す。

今のところ偽りを話す利点はまるでない。


「アンタ、修羅場潜ってる感じだね。そういう経験は買えないってのに、上は馬鹿だねえ。そういえば石化病がバジリスクの毒が原因って本当かい?毒は何に混じってるんだい?」

私は王都の水道に混じっている可能性が高い事、そして[薬学日誌]によれば、バジリスクの毒水は1度沸騰させると無毒になる事を話した。


「なるほどね。確かにミング川沿いの村が軒並み石化してるし、この聖都の水道もミング川から取水している。そういやアンタ、エルフ語読めるんだろ?」

肯定すると、油紙に包んだ紙束を大切そうに奥から出してきた。


「これはムゲット先生が残してった研究メモなんだよ。アタイは聖力3で啓示は受けてないが一応弟子だったんだ。」

調査では確かにムゲットには何人か弟子がいた記録がある。

ただムゲットが国外に逃れると、それに合わせて姿を消すか、内務省軍に殺されるかしていた為、研究成果はは国内には残ってないと判断していた。


「メモはエルフ語と共通語の、ちゃんぽん。共通語は普通に読めるが、エルフ語は多少読める程度だから理解出来なくてね。」

薬学はエルフの方が進んでいるので、薬師はエルフ語を学び、読み書き出来る事が多い。

聖王国では平民は共通語さえ読み書き出来ない人が多いので、クレオが多少でもエルフ語読めるのは知識がある方と言える。


「先生、こんな得たいの知れない奴に、先生の師匠のメモ見せなくても、いいだろ」

パトリと呼ばれた少年はスラムの住人らしく、警戒心が強い。


「クーアには色々頼みたいのさ、ちゃんとした魔術師なんてスラムじゃ中々いないからね。」

ようやく沸いた白湯をカップに入れて渡してくれる。


「明日、研究メモを{魔導転写]してロカに渡してくれないかい。転写用白本は用意するからさ。」


「後、ロカとパトリを[解析]して魔力と聖力を教えてやっとくれ。」

白湯を啜りながら、依頼してくる。


[解析](使1残1)

「パトリさんは魔力0聖力3竜力1」

「ロカさんは魔力5聖力6[真実]の天恵」

私は返答した。

パトリ少年はこの国では珍しい竜人。ロカという少女は突出はしてないが才能がある。

神からの啓示を受ければ大きく化けるかも知れない。

それ以上に天恵持ちなだけで、どの宗派でも引く手数多だろう。


「アンタまだ今日の魔力が残ってたのかい?本当に腕利きじゃないか。」

本当は魔力量は魔術師として生死を分けるので隠したいのだが、今の私には魔術以外には、隠しポケットの銀貨1枚とプラティーンの小瓶しかない。

役に立つと印象付けて、しばらく世話にならないと今日の食事にも困る。


「先生、そろそろ[聖女の丸薬]の事を聞こうぜ。そいつがあれば[石化病]治るんだろ?」

パトリが改めて問い正してきた。


「完全に石化する前なら治ります。それに神力8あれば完全石化も癒せます。」

私はハルピアで歩き巫女アヤメが魔族(デポ)や豪商達に語った[薬学日誌]にある石化病の詳細を話した。

3人共に目を丸くして聞き入っている。

話の最後に聖女レイカが石化病を2人同時に癒やす奇跡を話すとロカと呼ばれている少女は泣いていた。


「大地母神は既に聖女を遣わされているのですね?」

当の本人は聖女ではないと主張している事は話から除いている。

信心の薄い私でもレイカが奇跡を見せた時は聖女と言う言葉が頭をよぎったのだから……。


「強力毒消し粉の材料だけでも高額な薬草だってのに、バジリスクサボテンとは王城の薬品庫にもありそうにない代物(しろもの)が材料じゃないか。」

商業都市ハルピアでも値上がり前で1壺金貨1枚。

大陸の東端にある、ここ聖王国では5〜6倍はする。


「……ですから、クレオさんの治療薬なら、まだ安価で毒の摂取量が少ない場合の治療薬になると見て脱走してきたのです。」

説明を終える時に脱走理由も伝えた。


「クーア、どうやらアタイ達にはアンタの力が必要になりそうだよ。」

クレオが思案顔で呟く。

「数日後には薄力でも中力でも毒消し粉が高騰しちまうだろうからね。」


「パトリ、クーアを宿泊小屋に案内してやってくれないかい。ロカはアタイと一緒に歩き巫女の婆さんに復帰の挨拶にゆくよ。逃げて来たってね。」

私は雨の降る中、パトリ少年と小屋から外に出た。

どうやら、このスラムには置いてもらえそうだ。

リストラされたクーアの面接の話(笑)

スラムの闇薬師に拾われたクーアの明日はどっちだ?


私の黒歴史がまた1ページ。

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