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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第12章 兎達の戦い

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不和の種

ペティは教われない立場ですから、技を盗まねばなりません。

「何してるんだい!」

フィーバーがチシナを殴りつける。

チシナは椅子ごと倒れ、[魔族殺し]は床に転がる。

「お客様、喧嘩は困ります。」

エールの入ったジョッキを置き、簡単に注意をしてレイカルさんは去ってゆく。


「[魔族殺し]に〜[沈黙詠唱]ですか〜」

デポさんが床の[魔族殺し]を手に取り空中に放る。

すると[魔族殺し]がトウモロコシの粒が熱で弾けるかの様な音がして弾ける。


「ちゃんと〜結界張ってありますよ〜少数派の魔族は大変なんです〜」

笑いながらデポさんが言う。


「でも〜次やったら出禁にします〜」

私は慌てて謝罪した。

ペティ君に会いに来れなくなったら、大問題だ。


「[沈黙詠唱]って何ですか?」

新リーダーがデポさんに訊く。

さっきまで露骨に警戒していたのに切り替えが早い。


「聖職者の祈祷と違って〜本来魔術に言葉はいらないんですよ〜ただ言葉が〜イメージを固めるのに便利なので〜術式に入ってるんです〜」


「ですから〜術式理解が進めば〜人間でも〜詠唱なしで魔法使えます〜指を鳴らすだけですとかね~」

デポさんが指を鳴らすと空中に青白い鬼火が現れた。


「[沈黙詠唱]は〜そのレベルに達した魔術師の証ですよ~」

デポさんが、そこまで話をした所でチシナが目を覚ました。


「でもチシナさん〜貴女は喋れますよね~」

デポさんが鬼火を近づけながらチシナに話かける。


「……、……」


「話せないですか〜喋らないとわかりますよね〜」

デポさんが、いたずらっぽく笑うが何故か怖い。


「……や、……止め、……たす……何でも話ます、……全部、なんても!」

呂律は回ってないが、チシナが初めて喋った。

なんか違うが……。


「喋れましたね〜良かったですね〜新生[茶色い雪兎]に〜私から一品お出ししますよ〜」

デポさんは鬼火を消し、厨房に下がって行った。

私は鼻血を出し酷い顔のチシナに治癒魔法をかけた。



「こいつはなんだい!」

「美味しい」

「旨い」

「……!」

私も1つを口に入れて、世界の裏側が見える様な衝撃を受けた。

私達が食べたのは小さな唐揚げだった。

1人ちょうど2個。

数が合わなければ喧嘩に、なっただろう。


「スモールバジリスクの〜唐揚げですよ~捕まえたら血抜きして〜塩漬けにしてくださいね~」

デポさんの簡単な手料理に衝撃を受けた。

皿に載せられない頭の部分を味見したペティ君が凄く悔しそうな顔をしている。


デポさんが料理の達人で、そして耳が恐ろしく早い。

2つの噂が確認出来た。

私達の新しい任務の件を知らないで、偶然スモールバジリスクを捕まえたら……なんて言わない。


あっと言う間に空になった皿を前に新リーダーが改めて全員の自己紹介を求めた。


「私は聖騎士見習いのアロマ・アギオ・イエレアス。イエレアス家は医学の家系で石化病の謎を解く為、志願しました。」

なるほど、[茶色い雪兎]が[薬学日誌]を持ち帰る実績を上げたと発表された時、リーダーは医学に明るい貴族家系の一員になる寸法という訳だ。

その為には先代リーダーのクーアは縛り首になるしかない。


「チ、チシナ。セ、正魔術シ」

チシナは、そこまで話して後は黙った。


「ギフト、偵察兵。奴隷鉱夫か兵役か選べと言われて昨年志願し、第2傭兵隊に配属されてる。」

ギフトの過去を初めて聞いた。


ちなみに正規兵は王侯貴族と、教団に雇用された兵のみで構成される兵で大抵は貴族か、その家臣達。

第1傭兵隊は平民の常備軍で志願兵。

第2傭兵隊は私的な傭兵団の丸抱えや訳ありの人物、特別志願兵(はんざいしゃ)などで構成されている。


「アタイはフィーバー重歩兵。数年前に訓練だって言うから本気で正規兵を叩きのめしたら、第2傭兵隊に配属されたんだよ。若気の至りだったねぇ。」

さっきもリーダーの腕を捻り上げていた。

若気の至りは冗談に違いない。


「従軍司祭のハイレンです。神力は4です。」

リーダーが納得した顔をする。

通常神力は3が一般的で、その場合ほぼ啓示を受けない。

啓示を受ける司祭は5〜6が普通、7以上なら才能があると言われる。

私の神力は4。


至高神教団は正規兵以外にも司祭を割り当てる義務がある。

だが誰を割り当てるかは教団が決めるられる……なので私は第2傭兵隊に配属された。



数日後

私達はレパタ王国跡へ向かう旅の途上にあった。

先ずはハルピアから西に向かい砂の街ニキアからレパタ砂漠をオアシス沿いに北上して旧レパタの街を目指す。

ニキア行きの商隊はリザードマン商人達がメインなので避け、また単独行だ。

ただ行動資金だけはリーダーの特権で豊富に出ていた。


「この[時間圧縮水晶]にバジリスクサボテンを封入して持ち帰る。王立植物園で育成出来れば[聖女の丸薬]を自国のみで作成出来る要になり、多くの人が救われる。」

夜営時のリーダーの改めての説明に内心は「多くの貴族、高位聖職者、大商人が救われる」でしょ。

と突っ込みを入れながら頷く。


リーダーは貴族らしく夜営準備は何もしない。

夜衛もしない。

その分は他の4人が分担して、おこなっているが、当たり前だと思っているので感謝もない。


「今回はハズレだねぇ」

とフィーバーは割り切っているが、私達3人は正直不満だ。

特にギフトは従者の様に扱われ、不満を溜めている。


そして夜営の夕食の度にリーダーは理想や作戦の意義、至高神の教えを説く。

それがまた他のメンバーの不興を買う。


「ギフト、任務中の事故(・・)で亡くなる士官は少なくないさ。でも下手すると、生き残りに責任がくるんさねぇ。短慮はよしなよ。」

夜衛中に2人が話している。

このままでは遠からず致命的な齟齬が生じるだろう。


今回の任務は全員では帰れないかもしれない。

そんな予感を胸に私達[茶色い雪兎]は西を目指した。

現実と乖離した理念を説く上司程ウザい存在はありません。

内心は「糞だ……」と思っても反論出来ないし、共感するフリする時間の無駄だからです。


私の黒歴史がまた1ページ。


(また愚痴ってしまった……。)


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