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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第12章 兎達の戦い

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尋問

ファムファタールで警戒していたのは、この天恵です。

[高速詠唱][解錠][煙幕][鼠火球](使4残4)

立て続けに呪文を唱えクレオと護送馬車を飛び降りる。

石畳に出来始めた水溜まりを走り抜けると、クロスボウの矢が飛来するが、あさっての方向へ消えてゆく。


鼠火球で怯えない軍馬に乗っているとは騎士レベルだろうか?

煙幕が効いているうちに姿をくらませないと詰む。


「先生こっちだ!」

少年の声がして、闇薬師が声の方向へ逃げてゆく。

[煙幕][鼠火球](使2残2)

追加で魔術を放ち、私もそちらに向かう。

セオリーなら別方向に逃げるべきだが、伝手(つて)もなく聖王都に放り出されて生き延びる自信はない。



裏通りを走り、しばらくすると肩で息をしながらクレオが止まった。

追捕の笛の音が遠くに聞こえる。

「もう大丈夫だよ、先生。」

逃走経路を案内していた少年が振り返りながら言う。


「先生、そっちの人は誰?」

少年が私を指差しクレオに尋ねている。


「この人は戦場魔術師のクーアさんだよ。見てのとうり、アタイの脱走の協力者さ。」

素直に縛り首になるつもりが、成り行きで脱走した。

仮初めの仲間だが、今はしばらくは頼るしかない。


「先生は人が良すぎる。前みたいに内務省の密偵かも知れないだろ?」

内務省も動いてはいた様だ。

ただ横の連携がまるでない為、効率は最悪。

そもそも内務省が20数年前、ムゲットを暗殺しようとしなければ、とっくに石化病は治る病になっていた。


「そういえば、その密偵はどうしたんだい?」


「芥子珠薬をタップリ吸わせて、洗いざらい吐かせた後、安娼館に売り払った。」

痛み止めに使う芥子珠薬は飲み薬だが、それを煙にして吸わせると強い中毒性が出る。

中毒になれば、煙を吸う為なら殺人だろうが、なんでもする様になる。


あまりの影響の強さに人間世界だけでなく、妖魔でも魔族でも医療薬以外では禁止されているのだが……。


「お前は戦場魔術師なんだろ?借金が返せなくなって逃亡して捕まったのか?」

どうやら尋問される様だ。

いつの間にか少年以外にも複数の気配が私を取り囲んでいる。

偵察兵ギフトがスラム生まれと聞いたが、こんな感じだったのかも知れない。


「違います。」

私は簡潔に答えた。


「……なら何故捕まったんだ?」

少年は私が続けて話すと思っていたらしい。

次の質問まで、少し間が空いた。


「軍規に違反したと告発されました。」

また簡潔に答える。


「所属は?直前の任務は何をしていて、何の軍規に触れたと言われたんだ。」

どうやら私に色々喋らせたいらしい。

多分だが、天恵持ちがいるのだろう。


「脱走前は軍務省第2傭兵隊の特務班[茶色い雪兎]所属。直前の任務は[薬学日誌]の入手と解読。機密漏洩の疑いで軍法会議に呼ばれていました。」


「[薬学日誌]だって?手に入ったのかい?ムゲット先生は、どうなってたんだい。」

黙って聞いていたクレオが口を挟む。


「[薬学日誌]は入手出来ました。ムゲットについては魔都ハルピアで消息が途絶えていて、それ以後は不明です。」

私は知っている事実を話す。


「内容は、どうだったんだい?石化病は治るのかい?」


「石化病については、原因がバジリスクの毒である事が書いてあったらしいと聞きました。そして石化病は治ります。」


「本当かい?治るのかい?」

クレオは興奮している。

周りの気配も変わってきた。


「私はこの目で聖女冷夏の奇跡を見ましたし、[聖女の丸薬]が効くところも見ました。丸薬のレシピは頭に入れてあります。」


「その女性は全て真実を語っています。」

後ろから若い女性、いや少女の声が、かかる。

どうやら予想通り[真実の天恵]持ちが聞いていた様だ。


「クーアさんだっけな。俺等のアジトに案内するよ。」

少年が疑わしげな目は変えずに告げた。

現実世界の芥子の歴史は古く太古の遺跡からも見つかるそうです。

ただ、どうやら、その実を食べる為に栽培していた様ですが。

芥子珠薬(アヘン)の方は飲み薬としては古代ギリシアあたりにも見られます。

植物と歴史は面白いですよ~。


私の黒歴史がまた1ページ。


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