薬師
戦場魔術師クーア
能力(敏8力4技3投3魔8聖3)
本国に向かう船では、犯罪者ではなく普通の軍人としての待遇だった。
プラティーンが船に持ち込んだリザードマンの芋酒を酌み交したり、[薬学日誌][ケリーノート]の魔導転写を手伝ったり、まるで本当に休暇をもらった様に過ごした。
プラティーン曰く、初代勇者が持ち込んだ推定無罪の概念が少しは残っているとの事。
勇者が残したのはその血筋だけではなかった様だ。
聖王国王都の港に船が入ると、私とプラティーンには、それぞれ別の迎えが待っていた。
プラティーンには王宮の暗号解読班からの高速馬車。
私には軍務省からの護送馬車。
「世話になりましたね、プラティーン。」
「こちらこそ。そういえば、クーア、小瓶は持ってるよね?」
それが下船時にプラティーンと交わした最後の会話。
一時とはいえ生死を共にした仲間にしては実にあっけない別れになった。
まぁ、私達に妙に湿っぽい別れは似合わない。
変わりに天が泣き始めて、雨が落ちてきた。
護送馬車がゆっくりと王都を進む。
普通なら10人は詰め込まれる囚人席に私と、もう1人の女性しか乗ってない。
犯罪者が少なくなった訳ではないだろうから、たまたまの偶然だろう。
そんな事を考えていると、そのもう1人の護送されている女性が話かけてくる。
「ねぇ、アンタ魔術師だろ?逃げないのかい?」
「この護送馬車は耐魔構造になってないから魔術なら鍵は開くし、街は見ての通り疫病で沈黙しているよ。」
「逃げ出したって、衛兵は追って来ないんだからさ。ねぇ。」
やけに饒舌な女性。
確かに人通りの減った通りに活気のない市場。
一見、逃げ出す機会が有りそうに見える。
だがそれは罠だ。
逃げ出したとしても、衛兵は追って来ない。
石弓を構えた騎馬が気が付いただけで2騎、後を着けて来ている。
これは逃亡した場合、捕らえず殺害する体制だ。
縛り首と石弓での射殺、私としては残り時間が変わるだけだが、この女性はどうなのだろう?
「見た所盗賊には見えないですけど、何をしたんですか?」
何の罪状か分かれば、大体の罰は予想出来る。
神殿と貴族絡みでなければという条件付きではあるが……。
「何も悪い事はしていないよ。私は薬師なのさ。まぁギルドに入ってないから俗に言う闇薬師だけどね。偽薬を処方し、人心を惑わせたとか神殿に言われて捕まったんだよ。」
残念ながら神殿絡みの様だ。
ただ罰の予想は簡単に出来る。
薬師ギルドの庇護無き闇薬師への判決は斬首だろうから。
「やはり石化病の偽薬ですか」
「偽物ではないよ。魔術師だったら聖女ムゲットの名前ぐらい知っているだろう?私が造ったのは、その聖女様の使っていた秘薬さ」
聖女ムゲットの秘薬。
その本物をハルピアで見たんだが、民間に伝わるのはどんな物だろう。
「聖女様は石化したゴブリンを見て、ただの病じゃないって気が付いたのさ。ゴブリンやエルフは流行り病にはかからないからね。」
「滋養の付く薬草に薄力毒消し粉を混ぜるんだよ。完全じゃないが、効果が出るんだ。」
毒に対する抵抗を増し、薄い毒なら消せる。
足元にヒントはあったじゃないか。
内務省の調査班は……。
いや、プラティーンの言う通りだ。
これから私を殺す国の心配をしてどうなる。
「ねぇ、一緒に逃げよう。戦場魔術師が軍法会議なら良くても、奴隷鉱夫じゃないか。」
不治の病ではなく石化病は治る……。ただ治療法伝わっても、治るのは貴族や上位聖職者、裕福な商人など大金持ちだけだ。
この闇薬師を逃がせば、それよりも、ほんの少しだけ助かる人が増える。
「逃げた後のアテはありますか?貴女の薬が、この国の民には必要なようです。」
「勿論あるよ。アタイはクレオ、ソート村のクレオ」
「戦場魔術師のクーア」
私は、そっと詠唱を始めた。
この章は外伝的に[茶色い雪兎]を描く予定です。
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