鈴蘭
あれ?って思われてた方。
種明かしです。
「そういえばアヤメ、ケリー先生だけでなく、アヤメもムゲットさん知っているよね?」
竜の島に向かう商船の上で冷夏が尋ねてくる。
冷夏が[石化病]を癒やしてから[魅惑の伯爵夫人]も大地母神殿も冷夏の行く先は大変な騒動になった。
3日後にはハーピー商会のイブスル城に避難したが、聖女を一目見ようとする群衆は城を取り囲み籠城の様な雰囲気になり、なるべく早く退去する様に勧告された。
どうしようもなくなり、1日だけ厳戒態勢で臨時無理診察日を行い、その後は[石化病]蔓延する聖王国に招かれたとして、行き先の違う船に乗りハルピアを離れた。
聖王国の船が再度取り囲まれて、治安傭兵隊長が肝を冷やしたらしいのはご愛嬌だろう。
「アヤメ、違った?」
「いえ、合ってますよ。今はムゲットではなく鈴蘭と名乗ってますけど。」
少し間を置き冷夏の問いに応え、種明かしをする。
「至高神の暗殺者に追われ、竜の島に逃げてきた後に父と出会い、結婚を期にリザードマン語風に改名したと聞いてます。」
私の母、鈴蘭の旧姓がムゲットだから知っているも何もない。
「むぅ!お母さんなの?アヤメ、早く言ってよ~。」
私が見た最初の[薬学日誌]は原本で母の暗号は子供の時から知っているのでスラスラ読めるし、何なら書ける。
私の医学薬学の最初の師は母だったりする。
落ちこぼれの竜人として生きるのではなく、歩き巫女を目指したのもその影響だ。
家出同然に家を出る時、刀を買う資金とリキタまでの路銀、ケリー先生への紹介状をくれたのも母。
改めて確認すると、全く持って頭が上がらない。
「う~んやっぱり、アヤメの方が聖女だったって、皆んなに話そうよ。聖女の娘が次の聖女の方が良いよぅ〜。」
「それなら、両親に冷夏を養子にする様に話しますね。後、弟もいるので気に入ったらお嫁にくる?」
私は笑って冗談を返した。
だが実際は私は家には近寄らないつもりだ。
田舎の里から見れば、とんだ放蕩娘だし、父と顔を合わせたくない。
「アヤメの実家って竜人五家に仕える忍の家だったりしないよな?」
チャシブが尋ねてくる。
「まさか。忍びの家でも、そんな名門なら兄や姉が島から出て出稼ぎなんてしません。私の里は竜影党でも傍流の小さな里です。」
竜の住む山の山裾にへばりつく様に暮らす小さな村。
竜の島、最大の港であり最大都市でもある火蜥蜴の街から徒歩で10日はかかる田舎。
「竜の島って竜がいるんだよね?アヤメやチャシブは見た事ある?」
冷夏が無邪気に、しかし事情を知らない島外者らしい質問をしてきた。
「遠くの水平線にチラッとならある。近くではあり得ない。冷夏、俺もアヤメも生きてるだろ?」
チャシブが恐れを持って答える。
「ふぇ?竜って、そんなに危険なの?」
「竜の島の半分は竜の縄張り。不用意に入れば竜に狩られちまう。」
「それに残り半分の8割は竜を神祖と崇めるリザードマンの領土。竜に不遜を働けば殺されちまう。」
「人が竜を間近で見ると大抵は死ぬんだよ。冷夏」
チャシブが竜の島の心得を伝える。
「私の里はその竜の住む山の裾野だから、祭りの時に村の長や若長は会った事が有るかもしれない。」
実は私も一度だけ事故で会った事があるが、あくまで事故なので秘密とされている。
「アヤメの里って、縄張りん中にあんのかよ。ヤベえ田舎だな。」
チャシブが一瞬、ヤバい人を見る目で私を見た。
「そう、だから先ずは火蜥蜴の街で今後を考えるとします。」
遠くに島影と羽ばたく竜の姿が見えた。
この章はこれで終わりです。
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追伸
田舎には現地では当然の、傍から見るとヤバい事があったりします。
随分前の夏に見た雪国の2階にも玄関がある家々とかは多分それなんだろうなぁ~と思ったりします。
私の黒歴史がまた1ページ。




