惜別
曲がりなりにも、啓示受けた司祭には福利厚生があります。
神が実在する世界での聖職者ですから。
聖女が石化病を癒やす奇跡を見せてから10日。
あたいとギフトは[魅惑の伯爵夫人]に入り浸るハイレンに金をせびりに行く。
隊長は休暇に入ってから姿を見せず、プラティーンは本国の緊急事態省から召喚命令が出て部隊を外れた。
プラティーンは挨拶も、そこそこに去って行ったが優秀な人材は忙しいんだろう。
一緒に任務を遂行すれば、ローエルフの二つ名はフェイクで優秀な人材だと、分かる。
だが、それに気が付かないフリするのも傭兵、兵士の処世術。
余計な事を知った傭兵、兵士は何故か、いなくなる。
その時不意に、隊長とは二度と会えない気がした。
根拠なんて、立派なもんは何もないが……。
店に入るとハイレンは最近定位置になったカウンターで飯を食っていた。
細い目をさらに細めてハーフエルフの餓鬼を見ている。
「フィーバー、ギフトもペティ君を見に来たのですか?」
吟遊詩人や男娼に入れ込んでしまう冒険者がいるがハイレンのもその一種。
ハーフエルフが魔族の店主に扱き使われ困った顔で働くのを眺めて嗜虐心を宥める。
[推し]とか呼んでいるが、ある意味正気ではない。
まぁ入り浸ってから、旨い料理もあってか精神的に回復したのは僥倖だが……。
「違うよ、傷病休暇で傷病手当出てるハイレンと違ってカツカツだよ。いくらか廻してくれよ。仲間だろ?」
ギフトがストレートに金をせびる。
「隊長に相談したくとも、隊長は雲隠れして居ないしねぇ〜。」
あたいが言い添えると、ハイレンが酒と飯を奢るからと、テーブル席に席を移した。
「リーダーはプラティーンと同じ船で本国に帰りましたよ。」
ハイレンが酒を一気に開けた後、ぼそりと打ち明けた。
「軍務助祭に銀貨を握らせ、聞いたのです。リーダーは機密漏洩の罪で本国にて軍法会議に、かけられます。」
「なんだって!」
ギフトが大声を出し、魔族の店員に、
「お客様……」
と、やんわりと注意される。
「[薬学日誌]探索の任務を[竜の卵]に伝えた事が、機密漏洩にあたるそうです。」
ちなみに告発者はリキタの街から追放された高司祭だそうだ。
リキタ神殿事実上の閉鎖は、あたいが考えても大問題。
その責任逃れに糞を隊長に擦りつけ、自分の尻は拭かないで誤魔化す。
軍規違反者の無理な計画に巻き込まれた私は被害者だと主張する、貴族のやり口だ。
「どうしよう?」
ギフトが口にする。
「どうしようもないねぇ。」
あたいは返す。
「軍法会議の有罪率は9割以上。機密漏洩は縛首。プラティーンは腕利きの弁護人付けるって約束してったけど……」
ハイレンが3杯目を頼みながら呟く。
「あたいらに帰還命令も出ないし、[茶色い雪兎]の解散命令も出ない。兵員補充され次第、次の命令がくるねぇ」
あたいは追加のツマミと酒を店員に頼んだ。
ギフトは何も言わない。
「我らがクーア隊長に乾杯!」
いつもは吝嗇なハイレンが、今日は何も言わずに腹一杯飲ませてくれた。
居なくなってから、退職を知った恩人に……。
私の黒歴史がまた1ページ




