世界を廻す計算
[人間世界の風習]より抜粋
メデューサ遊び。
人間世界での子供の遊びの1つ。
まず1人がメデューサ役になり、他のメンバーは冒険者役になる。
ある程度の距離からスタートして冒険者はメデューサに近づく。
(この時走ってはいけない)
掛け声が終わり、メデューサが振り向くと冒険者は片足立ちで石化した(フリを)しないといけない。
(転ぶか、両足を付いたら、その場で、しゃがむ。死者を意味するらしい)
冒険者がメデューサの肩に触れたら、触れた冒険者の勝ち。
(冒険者は石化中なら前の冒険者を押す権利がある)
冒険者が全滅したらメデューサの勝ち。
勝った者は尊敬を集める。
領都に付いた所で商隊との契約が終了した。
商隊は、ここで数日補給や商売をして、その後王都に向かうと言う。
朝夕簡単な食事がつき、街に入る税は商隊が払ってくれる、そして少ないが報酬も貰える。
急ぎでなければ商隊護衛は良い仕事だ。
前の様にマンティコア退治などに駆り出されなければだが……。
[聖女様が転んだ]
[トロールが屁をこいた]
メデューサ遊びという子供達の遊びに見られる掛け声だが、途中街道の横で岩に擬態しているトロールを見た。
ダークエルフやインプ、フェアリーなどに唆されるか、空腹時を除けばオーガと違い無駄に戦う妖魔ではない。
特に商隊は護衛が付き、数が多いので
やり過ごそうとする。
こちらも無視、あちらも無視。
もし戦えば大きな被害を出すのだから、それが賢明だろう。
[まわる水車亭]に入るとドワーフの店主がデグさん達に話しかけている。
「おや?デグ。ロバート伯爵様に雇われなかったのか?」
「旅の目的が出来た。」
デグさんが呟く様に話す。
「レイカ嬢ちゃん絡みかい?」
髭面の奥でニヤリとしながら2人を見る。
「いや違う。自分は死んだ兄者の仇を探している。」
店主が表情を変え
「これは悪い事聞いちまったな。すまねえ。そうかジグは死んだか……。」
死者を悼む遠い目をする。
「ミケはこの店に寄らなかったか?」
デグさんが続けて訊く。
「いや、見てねぇが、まさか仇ってのは……」
店主が言い淀む。
「ああ、兄者を殺したのはミケだ。」
暗い目をしてデグさんが答えた。
翌日
[竜の卵]で大地母神殿を訪ねた。
正門をくぐると、あちこちから声が聞こえてくる。
「久しぶりレイカ。」
レイカさんが声に手を振る。
「あれ?レイカもう上級神官になってるじゃん。」
何故か笑って誤魔化している。
「[人狼斬り]よ。[人狼斬り]が帰ってきたわ」
歩くアヤメさんに神官達がざわめく。
「街のゴロツキが噂してるって話よ『人狼はヤベえ、それを斬った[人狼斬り]はもっとヤベえ』って。」
アヤメさんは随分、恐れられているらしい。
「多分、アヤメが美人だからってのもあんだよブレナ。」
チャシブが小声で言う。
「[魅惑の伯爵夫人]、[竜の卵]で美人見すぎて、麻痺しちまったかも知れねえが、女ばかりの社会で美人で有能って言うのは大変なんだぜ。」
そう言いつつも少し拗ねている感じだ。
思わずチャシブの肩を抱き寄せる。
何故か若い神官見習い達から声が上がった。
案内の神官に通された会議室には大神官と神官戦士長、図書神官長、学問所上級神官が待っていた。
「まずは[竜の卵]の皆さん。早馬での警告に感謝します。」
図書神官長が口を開く。
ノウル伯爵領からアヤメさんが早馬を出し、至高神殿の襲撃可能性を伝えていた。
「結果として[薬学日誌]は奪われてしまいましたが、事前の魔道転写により図書に実害は、ありませんでした。」
「図書に実害なくとも、下級神官が1人死亡。1人行方不明になっていますわ。わざわざ襲撃を受ける必要性があったのか疑問です。神官戦士長としては抗議いたしますわ。」
肩書なければ神官戦士長には見えない美人が抗議した。
「対価に至高神司祭の3人が自害。1人を逃亡中に殺害。神殿責任者の高司祭は追放。領都での聖王国派の影響力は激減しています。」
大神官が穏やかな口調で暗闘の戦果を語る。
「それに聖王国での石化病蔓延の確認も出来ました。これで聖神派以外の魔王討伐の機運を削ぐ事が叶います。無意味な戦争を防げるのですよ。」
だが死んだ下級神官も、使い捨てられたであろう者達も戻らない。
世界は非情な計算で廻っている。
「アヤメ、貴女には功績により、神官資格を贈ります。引き続き精進する様に。」
アヤメさんは深々と礼をする。
「レイカ、貴女には当神殿の上級神官寮に1室を与えます。まぁ貴女には、それよる大浴場入り放題の方が、ご褒美になるでしょうけど」
レイカさんは満面の笑みで礼をした。
「デグ、貴方には金属製胸当を早急に作らせるので受け取る様に。」
デグさんは頷く。
「他の2人には金貨10枚づつ贈ります。帰りに受け取って下さい。」
チャシブと共に礼をした。
「最後にアヤメ、レイカ、2人にケリー上級神官が話があるそうなので、研究室に寄って下さい。」
すると、端に座っていた学問所上級神官が穏やかに微笑んだ。
トカゲの尻尾切りの逆で、本体を犠牲に尻尾が目的を果たし脱出する。
[茶色い雪兎]のクーアって実は有能さんですね(笑)
私の黒歴史がまた1ページ




