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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
11章 聖女の足跡

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ごめんね

アヤメの影響で大地母神殿ではリザードマン刀ブームが来てます。


「貴女は?」

抜群のスタイルの美人が私を値踏みする様に見ている。


「下級神官のハンナです。」

緊張しながら答える。

この美人が槍の達人で知られる神官戦士長と知っているからだ。

昨夜も敷地内に潜入してきた盗賊達を十文字槍で血祭りにした。


「神力は?」


「4です。」


「もしかして貴女もリザードマン刀の使い手?最近人気なのよね。」

そういえば、神官戦士の訓練でリザードマン刀を模した木刀を振るう人が多かったが……。


「いえ、私は……その、モーニングスターを少々かじっておりまして……。」


「なるほど、武術の経験ありそうな歩き方してるから声かけたけど。」

神官戦士長は、そう言うと大きく欠伸をした。


「今夜の夜衛番に参加お願いね。ハンナちゃん。寝不足は、お肌に悪いわ。」

まったく、潜入任務なんて心臓に悪い。



[聖なる夜]で痛飲した翌日。

リーダーが告げた作戦は私が下級神官のフリをして潜入しギフトと連携して[薬学日誌]を盗み出すと言うものだった。


[竜の卵]が加わる商隊が到着してしまったら時間切れで撤退すると決めたのでチャンスは約7日間。


勿論、潜入した中で合法的に[魔導転写]する機会があるなら転写させてもらうが、時間的に現実的なのは盗み出す事だろう。


「ハンナ下級神官、朝食を終えたら、午前中は治療所の手伝い、午後から仮眠を取り、閉門後から朝まで夜衛よろしく。」

上司の神官から指示がある。


[働かざる者食うべからず]

大地母神の下級神官は朝夕の食事が出て、宿泊費が安価なかわりに修行と称して扱き使われる。

それでも、啓示受けてない神官見習いよりもマシなのだから潜入に私が選ばれたのは必須だったのだろう。


診療所で雑用に追われていると、「神官様」と話かけられた。

見るとギフトがこちらに近づいてくる。


「典礼司祭の雇ったシーフ6人は敷地に入ってすぐに巡回に見つかり全滅しました。ギフト、忍び込むのは無理です。」


「分かってる。ハイレンこそ大丈夫か?祈りの言葉でバレるだろ?」


「祈りの言葉はエルフ語にしてるから大丈夫です。下級神官が対応するのは大抵普通の平民だから。それに神力4だから奇跡はアテにされてません。」


「軍務司祭が食い詰め冒険者達に直接依頼を出したよ。やっぱり強襲策を取るらしいね。ハイレン、便乗しようか?」


「駄目です。確信はないけど待ち伏せされてる雰囲気がします。情報が漏れてるのかもしれません。」

[聖なる夜]は旅の至高神司祭を把握する為の罠かも知れないと痛飲した夜にプラティーンに言われた。

そんな馬鹿なと一蹴したけど、今から考えると一理あるのかもしれない。


「リーダーは?他の皆は何を?」


「リーダーは魔術師ギルドに通ってる。魔術師ギルドには石化病の事バレてるはずだからギルドも薬学の資料収集してるはずだって。」


「プラティーンはエルフの研究者のフリして、ここの図書館に通ってるけど閲覧料金の割に成果はないみたい。」


「フィーバーだけは毎日プラプラしてるよ。まぁ単純で嘘つけないから街中では役に立たないよ。」

ぐぬぬ。

やる事ないなら人足でも良いから働いて欲しい。

あのエルフも無駄な経費ばかり使って。


「ハンナ下級神官どうしましたか?」

長く話過ぎたか、上司の治療神官が近づいてくる。


「いえ、この少女がソバカスを目立たなくする方法がないかと相談を……。」


「まぁまぁ、確かに神聖魔法でソバカスやシミは治りますが、限りある神力を怪我や病気に割り振る為、寄付金額が高額に設定されてます。」


「でも、若い娘は気になるわよね?」

その後しばらく神官の化粧についての話が続いた。

私にも何故か、目をパッチリ見せるメイク術を説明してくれた。



夜。

「ハンナ、2人で廻った事にしてくれないかな?」

夜衛番は2人1組で巡回する。

その相方がそう申し出てくれた、願ってもない申し出だ。


「その、彼女(・・)が誕生日なの。」

愛の形は様々だが、基本女しかいない大地母神殿では、そういう風になる確率は高いらしい。


「大丈夫、確かに本は貴重品だけど、わざわざ命がけで盗みにくる奴なんて居ないから。」

眼の前に居るし、昨夜は、それで6人死んでいる。

図書館近くの巡回コースを割り当てられたのも至高神の思し召しと思ったが、これは、いよいよ運が向いてきたかもしれない。


「朝の点呼にまでは戻るよ。」

相方は足早に去った。

やるべき事は隙を見て巡回コースを外れ、図書館に忍び込み、本を探す事。


通用口の鍵は古く、著者不明の価値があるか分からない本は3階の奥の部屋。

そこまでは調べがついている。

侵入は夜通し組でない1組が外れる真夜中まで待つ事。

ランタン片手に歩きながら時を数えた。


緊急を知らせる笛の音。

内心舌打ちしながら、近くの詰め所まで走る。

この詰め所には本来4組8人が揃うはずが6人しか居ない。


「ハンナ、相方は逢引よね?」

もう1組の1人しか居ない組の下級神官が溜息と共に話す。


「1 組は薬品庫に応援に行って、私の組は浄財庫に。数が多いわ。昨日のは威力偵察だったみたい。」

笛の音を聞き分けながら、この詰め所の責任者の神官が指示を出す。

この街の大地母神殿の警備は堅いはずだ。

第2傭兵隊でも、こんな連携は出来ない。


「あぶれ者同士で図書館巡回は続けて、サボりと、それを看過した懲罰は落ちついたらね。」

今夜の図書館潜入計画は頓挫し、懲罰まで確定。

新しい相方と同じタイミングで溜息をついた。



「今夜はツキがなかったけど、侵入者と戦うよりはマシか……」

ランタンを持っていた新相方が突然倒れた。

背中からは弩の矢の後ろ部分が飛び出している。

愛用のモーニングスターを構えながら振り返ると、弩を捨てた覆面の人物が抜剣しながら走り寄ってくる。


灯りに向けて撃ったのだろう。

私がランタン持ってたら私が撃たれてた。

今夜の運はまだ残っているらしい。


相手は、そこそこの腕の冒険者と見た。

ならば、私には初見殺しの必殺技がある。

思い切って踏み込み、構えたモーニングスターを間合いを測って上段から振り抜く。


相手が達人ならば、かわされて私は死ぬ。

素人なら剣を突き出され、相手も私も死ぬ。

そこそこの腕なら咄嗟に剣で防ごうとし、チェーン部分を受けてしまい、凶悪な先端の星が直撃して相手が死ぬ。


頭を砕いた確かな感触がして、相手は倒れた。

緊急の笛を吹こうとして、ふと気がつく。

弩を受けた相方を見るが、運なく即死している。

私は図書館に向けて走った。



図書館の通用口は開いていた。

本命は[薬学日誌]だ。

軍務司祭、冒険者を使い捨てるにしろ大胆な策を……。

例え本が入手出来ても、隠蔽しきれるとは思わないがどうするのだろう……。

ジリジリしながら待つと本とランタンを手に1人の少女が出てきた。


「シャンデ……」

やはりそうだ。

さっきの覆面の冒険者の動きは……老いていた。


「ハイレン!」

「なんで、こんなところに?」

至高神司祭の私が、大地母神の下級神官のフリして待ち伏せしてるなんて夢にも思わなかっただろう。


「ごめんね。」

短い付き合いだった友人に、私はモーニングスターを振り下ろした。

「ごめんね」

アニメにもなった漫画で、イタリアが舞台の群像劇にもあった台詞。

お勧めの名作です。


私の黒歴史がまた1ページ。


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