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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
11章 聖女の足跡

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思惑は踊る

参謀も一般人への肩書は司祭です。

領都に入り[痩蛙]と別れた。

リキタ伯領に入るのに1人銀貨1枚かかったが[痩蛙]分まで払ったのは吝嗇なハイレンにしては珍しい。

どうやら、シーフの少女と意気投合した様だ。

[痩蛙]は[まわる水車亭]に宿を取るという。


我々は宿には入らず至高神殿へ向かった。

この街の軍務司祭達と作戦行動の打ち合わせをしたい為だ。


リキタ伯領は至高神聖神派のジナリー王国にありながら、伝統的に大地母神殿の力が強い。

街の神殿は近隣諸国のなかでも有力神殿で神官の為の学問所が整備されている他に図書館、薬草園、治療院など設備が整っている。


そこに眠る[薬学日誌]を入手するとなれば現地担当者と作戦の摺合せは必須になる。

私は[茶色い雪兎]の隊長として作戦会議に望む。



作戦案は、まずは正攻法。

①大地母神殿側に事情を明かし、本を借りて[魔導転写]をして持ち帰る。


②事情は明かさず、薬学研究もしくはムゲットの研究と称して本を借り[魔導転写]して持ち帰る。


次に強硬策

③書庫に密かに潜入し[薬学日誌]を盗み出して持ち帰る。


④書庫を強襲し[薬学日誌]を奪取して持ち帰る。


軍務司祭と軍務参謀、典礼司祭と典礼参謀、そして私。

5人で話し合いが始まった。


「正攻法はあり得ない。我が国の窮状を知らしめる様なものだ。それに大地母神殿側に払う謝礼金を財務司祭が認めるとは思えない。」

まず最初に発言した軍務司祭は強行策を主張する。


「しかし軍務司祭殿、もし強行策を取り発覚すれば大地母神殿との関係は酷く悪化いたします。その際の責任はどなたが負われるのですか?」

強行策を封じるには責任論。

もし強襲しろなどと言われたら死ぬのは我々現場の者だ。


「失敗を前提に考えるのか?そうならない様に尽くすのが貴様の役割だろう!」

軍務参謀が反論してくる。

やはり、そうきたか。


「もちろんです。失敗すれば我々の命はありません。しかし、その後多大なる迷惑をお掛けするのは本意ではないのです。」

我々に責任を擦りつけられないと、先に指摘しておく。

現場が勝手にやったと、言い張っても組織内での責任論は付いてまわると伝わっただろうか?


「事情は明かさずとも、異教徒に頭を下げる様な案は認められない。そうでなくても、この国では異端派や異教徒が幅を効かせているのだから。」

大地母神を異教徒扱いとは……。

この典礼司祭は原理主義タイプだ。


「しかし司祭。今は頭を下げてでも、この作戦が成功し、国難を救ったとなれば本国に栄転どころか大臣も目指せますぞ」

こっちの参謀は栄達を望む腰巾着。


これは厄介な事になった。

今のところ正攻法にはなりそうもない。

強襲策だけは回避しないと我々の命が無くなる。


「強行し成功しても、手柄を公には出来なくなりますし、失敗すれば責任を問われます。大地母神殿に挑むのは容易ならざる任務となるでしょう。」

再度リスクを強調し翻意をはかる。


(責任は取らずに、手柄は欲しい)

そんな糞野郎達の思惑を、すり抜けた先にしか[茶色い雪兎]の未来はない。


「軍務の兵は臆病風に吹かれている様だ。これでは成功はおぼつかない。」


「典礼部としては、ここは事情を知らせずに、冒険者に任せるとしよう。」

典礼司祭達が突如宣言し席を立った。

なるほど、典礼司祭は軍務に手柄はやれないと判断した様だ。


「確かに貴様らでは頼りない。本来なら軍務怠慢で軍法会議ものだが、情報をもたらした功と相殺しよう。情報の秘匿を守れるなら、好きにするが良い。」

軍務司祭達も席を立つ。

連携は完全に失敗し、現地の援護なしに任務に望まねばならなくなった。



宿

[聖なる夜]は、この街では肩身の狭い至高神信者が良く泊まる宿として知られている。

リキタ伯爵の意向で正式な至高神の聖印を見せると食事がタダになるからだ。

ハイレン1人でも食事代が浮くのは助かる。

ちなみにプラティーンは、この宿に反対した。

どうもハイレンとプラティーンは仲が悪い。


「っはー。隊長、どうする?」

フィーバーがエールを、煽ってから言う。


「資金調達は……無理ですよね。」

そう言った後ハイレンがエールを一気に煽りジョッキをテーブルに叩きつける。


「単独潜入。逝けと言うなら、逝きますが……」

ギフトは何かを覚悟した顔をしている。エールにも食事にも全く手を付けていない。


「このまま帰ろう。[竜の卵]が解決してくれるよ。死んだら、お酒飲めなくなるからね。」

プラティーンは2杯目を注文しながら言う。


いつもなら止めるハイレンが、

「私にも!」

と叫び。

かえって、フィーバーが2杯目を頼めずにいるのが奇妙だった。


「ギフト、報告を。」

「大丈夫、それとも私が『死ね』と命じる上官に見えるのか?」

笑いながら話しかける。

が、ギフトはボソリと

「必要だったら、あんたなら言うね」

と返してよこした。


事実上任務を放棄し逃げるか。

大地母神の聖女なら、祖国で石になりつつある人々を救ってくれるだろう。

だが……。


「隊長、今は飲んで明日考えようじゃないか。どうしても駄目んなりゃ脱走してハルピアあたりで冒険者になりゃいいってね。」

フィーバーの脳天気さに今は乗っかっておこう。

「失敗を前提に考えるのか?そうならない様に尽くすのが貴様の役割だろう!」

まさかですが、言われた事あったりします。

到底無理な目標に対して、それをフンワリ伝えただけなんですけどね。

それ以来、誰も発言しなくなったので会議は早く終わりましたが……。

もちろん、目標は達成しませんでしたよ。

と、言うより参加メンバーが馬鹿らしい目標を誰も目指さなくなりました。

めでたし、めでたし。


私の黒歴史がまた1ページ。


あ〜また愚痴ってますねー

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