流行り唄
希少種のハイエルフと珍しいノーマルエルフ
プラティーンはノーマルエルフですが……。
「リーダー。銀200枚受領出来ました。」
ハイレンが報告してきた。
パーティー単独行だと、リキタ領まで銀50はかかる。
向こうで経費受領できなければ戻るのにもう50。
滞在費、工作費、なかなか厳しい。
「隊長、鯨干し肉も混ぜて購入。ただし偏食の餓鬼には豚のみ配布予定。」
と、フィーバーの報告。
移動中は堅く焼いたパンと干し肉か芋と干し肉、たまにスープに乾燥ハーブや根菜が入る。
食べられる野草を摘む時間は今回は少なそうだから食は重要だ。
「[竜の卵]はパライバ商会の商隊と3日後に出発予定だよ。ノウル辺境伯領までの街道に不審情報ないね。」
と、ギフト。
1つ疑問が生じた。
「ノウル家は辺境騎士だろう?」
「つい先日伯爵位を叙勲され辺境伯になってるよ。」
そういえば、ジナリー王国は魔王討伐軍に出兵しているはず。
国境の守りには飴を与えても不思議ではない。
「書庫の緊急事態省扱いの文書に[リキタ大地母神殿の書籍目録]があった。その中に著者不明で[薬学日誌]があったよ。」
と、プラティーン。
「それが先に、わかってさえいれば……この酒飲み無能エルフ……。」
ハイレンが細目でプラティーンを睨む。
このパーティーの中でエルフのプラティーンだけは、緊急事態省からの出向者だ。
緊急事態省。
名前は立派だが王国内では閑職系組織とされている。
ただその実情は王国の諜報機関であり、私がそれを知っているのは偶然の産物による。
プラティーンは機密情報に触れられる貴重な人材のはずだが、パーティー内では酒で身を持ち崩したダメエルフ扱いだし、王国内ではローエルフと揶揄されていた。
「私は港についた聖王国からの船に本国の状況聞いてきた。王都でも石化病が見られる様になり、地方の村では村人の半数以上が石になった所もあるらしい。」
パーティーは無言になった。
状況は悪化しつつある。
聖王国派の諸国は魔王討伐軍に参加してないし、中立諸国も静観しているが、このまま聖神派諸国だけが武名を上げたら情勢は変わる。
その時盟主たる聖王国が疫病で身動取れなければ、どうなるか……。
歩き巫女ムゲットの秘密を得られるかどうか?
王国の命運がかかっている。
20日後
ハルピアを出た我々はノウル伯爵領に無事到着。
久しぶりに宿に泊まり旅の疲れを癒やす。
途中の妖魔の村は宿泊回避し、通過した。
至高神司祭ハイレンの安全に懸念があったからだ。
「今日ぐらいエールを頼んでも良いだろう隊長。」
「エルフが、もう頼んじまってるよ。」
弓と同じで張り詰めすぎると切れてしまう。
出発を明後日にすると宣言し、温かく新鮮な食事と少量の酒を堪能している。
「やぁ、お姉さんがた一曲どうだい。」
若い優男が話かけてくる。
「ここで一曲なら銀貨1枚で3曲、部屋で一曲なら銀貨3枚で何曲でも歌うよ。」
こいつは吟遊詩人兼男娼。
ここで歌わせるのは口上通りだが、部屋でというのは、朝まで何回でも相手するという隠語だ。
女ばかりのパーティーだと見て営業に来たのだろう。
「失せな!優男」
フィーバーが追い払おうとするが、エルフが止める。
「流行り唄2曲と至高神を称える唄を1曲歌って、後エールおかわり。」
「至高神を称える歌からなら……」
ハイレンがいい添えて銀貨を支払う。
歌が始まって、他に居た数組の冒険者も静かになる。
最初の[聖歌]は及第点、次の[勇者の歌]は聖女との愛憎の部分が良かった。
ちなみに[勇者の歌]は同じ旋律で王女との愛憎パターンと王女の侍女との愛憎パターンがある。
そして3曲目は[マンティコア討伐]、新伯爵ロバートが仲間と[黒い鬣]討伐した事を称える歌だ。
宿は大いに盛り上がり拍手で終わった。
エールを奢られ、テーブルに着いた吟遊詩人にエルフが色々質問をする。
「王都から来たんだね。最近のジナリー王都はどう?」
「ジナリー王は兵1500を率いて出陣されました。ランドルト平原で魔王討伐軍と合流されるとか。」
「兵力はどうなの?勝てそう?」
「討伐軍は50000近く兵が集まるそうです。魔王側は直轄領の平民から、ゴブリン使いにゴブリンまで集めさせて20000ちょっと。有力魔族は自領に籠り参戦見送りとの事ですし楽勝でしょう。」
エールを飲み干し、吟遊詩人が言う。
「どうです?もう一曲」
「いや、もう充分だ、ありがとう。」
エール代にと、もう2枚銅貨を握らせると吟遊詩人は去った。
聖王国は遺憾ながら魔王の奮戦を祈る事になりそうだ。
2022最後の投稿です。
今年は色々ありました。
この物語を綴り始めた事も、その一つです。
来年は良い年でありますように……。
私の黒歴史がまた1ページ。




