夕食会
ここに殴り込む主人公とか書ければ……。
魔術師ギルドから戻ると[魅惑の伯爵夫人]の店内は異様な空気に包まれていた。
夕食時なので厨房から良い香りがしている。
そして1階のテーブル席には…………。
1階のテーブル席には常連客の他に見慣れぬ客達が陣取っていた。
アヤメさんの姉の紫陽花とその護衛。
豪商パライバ商会の会長とその護衛。
至高神聖神派の司教とその護衛。
異様な雰囲気がしているはずだ。
デポさんには申し訳ないが、この店には相応しくない人物ばかりだ。
唖然としていると
「ブレナ殿こちらへ」
と手招きされる。
戦場魔術師のクーアさんとその仲間が端のテーブルに陣取っていた。
「ブレナ殿、これはいったい何が始まるのです。」
クーアさんに尋ねられる。
クーアさん他に座っている4人が[茶色い雪兎]のメンバーだろう。
「私にも、さっぱりです。」
一段高い踊り場の通称[竜の巣]には未だ誰も居ない。
事実上[竜の卵]が独占する席だから[竜の巣]。
今の雰囲気であそこに座る勇気が私にはない。
「いらっしゃいませ」
そういえば初めてみる店員が入ってくる客の対応をしている。
今度はデグさんが大地母神の神官長頭と護衛を連れて入ってきた。
店員に予約席に案内されてゆく。
「オーナー、皆さん揃われました。」
「タンポポ〜外に満席札出したら、料理を運んで〜レイカルお部屋に知らせして〜」
デポさんとチェストゴーレムが料理を運び始めた。
何かが動き始めている。
料理が揃ったころ、2階から冷夏さん、アヤメさん、そしてチャシブが降りて来て席についた。
冷夏さんは儀式用上級神官着を着込み、アヤメさんは新しい下級神官着を着込んでいる。
そして、チャシブは右手中指にガッシリした金の指輪を着けていた。
すると至高神聖神派の司教が立ち上がり階段下に立つ。
ハルピア教区の最高責任者、次の大司教候補の1人。
その司教が話始めた。
「皆様、今宵はお集まりいただき感謝いたします。皆様にお集まりいただいたのは大地母神上級神官のレイカ様を聖女に推薦する事をご報告する為でございます。」
そう言うと階段を上がりまず、チャシブの手を取り指輪に口づける。
そしてレイカさんの足元に、ひざまづき靴に口づけた。
店内はザワつく。
至高神聖神派司教といえば、相当な権威者。
それがレイカさんとチャシブの前に卑屈にも見える態度を取ったのだから……。
「クーア、あの金の指輪はシーフギルドのギルドマスターの名代の印。それを貸し出されてるあの女は幹部だね。」
黒目で、そばかすだらけの[茶色い雪兎]の少女が言う。
「私には貴女と変らない少女にしか見えませんが……」
至高神の神官着の細目の女性がそれに答える。
「ギフトもハイレンもわかっちゃないね。ヤバいのは、あのレイカさ。」
大剣を背負ったポニーテールの戦士が2人を揶揄する。
「フィーバー、筒持ってるのと、刀持ってるの、どっちがレイカ?」
エルフの女性が、のんびりエールを飲みながら尋ねる。
「プラティーン、飲んでないで、いい加減人間の顔の区別つけなよ。」
ギフトと呼ばれた黒目の少女がエルフにツッコミを入れる。
「人間の顔って区別つきづらい。」
エールを飲み干したエルフが、のんびりと答えた。
そんな会話の間に今度は紫陽花さんが階段を上りチャシブの指輪に口づけして席に戻っている。
「聖女レイカに乾杯!」
大地母神の神官長頭が乾杯の音頭をとった。
「今宵は司教様のご厚意で〜テーブルのお料理はご自由に〜エールは飲み放題です〜」
デポさんが宣言し、エール入りの木のジョッキをドンドン配っている。
「クーアさん。依頼の話は明日になりそうです。」
私がクーアさんに告げると
「聖神派司教が靴に口づけ、聖女推薦を宣言するなんて愉快な見世物があっては仕方ありませんよ。」
と返された。
「今宵は我らも任務を忘れて呑むしかないねぇ、隊長。」
女戦士フィーバーさんが笑いながら言う。
私は後で種明かしを聞かなくては、と思いつつ配られたエールを手に取った。
手打ちに見届け人が必要なのはマフィアもヤクザもこの世界でも共通です。
私の黒歴史がまた1ページ。




