近似値?
まぁ無理ですよね(笑)
「リリさん、久しぶり!」
私とデグは毎日顔を出していたが、冷夏が神殿に顔を出すのは暗殺未遂以来だそうだ。
ただ冷夏は[ずっと行動を共にしていた]のでリリと居た聖女は別人と言い張るらしい。
光と共に現れ、爆発と共に去ったのが真の聖女。
冷夏は聖女の近似値と主張するとの事だ。
あまり意味があるようには思えないが……。
「聖女様!お体は、もう大丈夫なのですか?」
「聖女様、我々を見放さないで下さいませ。」
案の定、人集りが出来始める。
「私は近似値。聖女じゃないよう。」
冷夏は主張しているが、聖女が去ったなら近似値でも良いと言われるに決まっている。
でも、冷夏を幽閉させるつもりは全くない。
「レイカ上級神官、アヤメ下級神官、聖戦士デグ、大神官がお呼びです。」
到着早々呼び出されたが、竜の傍らにいる為か最近あまり驚かなくなった。
大神官に呼び出され部屋に行くと、大神官の他に神官戦士長と至高神の神官着をきた人物が待っていた。
あの神官着は聖神教派の高司祭以上の衣。
いつでも[杜若]を抜ける様に息を整える。
「レイカ上級神官、アヤメ下級神官、待っておりました。貴女達に聞きたい事があります。」
神官戦士長が会話の口火を切る。
「貴女達は魔王レイナに会った事がありますね?」
大神官は怯えた顔をし、至高神の高司祭は罪人を見る目をしている。
「肯定もしないし否定もしないよ。冒険者は色々仕事するから、もしかしたら、今まで会った人の中に魔王の一人や二人いたかもしれないけど」
冷夏が明らかに、ふざけた回答をする。
だが、依頼人の信用なくしては冒険者は成り立たないから必要な態度だ。
「聖女などと呼ばれて思い上がっているな小娘。お前などその気になれば容易く破滅させられるのだぞ転生者。」
至高神の神官が冷夏を睨む。
「また刺客を送ってくるつもり?私も色々調べたんだよ。至高神の暗殺司祭。」
冷夏が指を鳴らし[使1残29]、火縄に火をつけながら思わぬ返答を返す。
そう、冷夏は種子島を撃てる様に準備してからこの部屋にきた。
「デグ、大神官を守って。アヤメ、戦士長は敵。しばらく前からギルドの口座が膨らんでるから。」
「貴様!」
高司祭が冷夏に手を差し向け、神官戦士長が抜剣しようとした。
室内に轟音が響き、煙と独特の匂いが充満する。
高司祭は糸の切れた操り人形の様に前のめりに倒れた。
射撃が早い。
しかも胸を正確に撃ち抜いている。
私は既に戦士長を斬り伏せ、残心に入っていたが冷夏には驚かされてばかりだ。
外から神官戦士達が走りくる音が聞こえた。
「アヤメ凄いよ、神官戦士長は抜剣術の達人だったのに、剣を抜かせないなんて。」
自分の事を棚に上げ冷夏が私を褒めてくる。
今は大神官の部屋から小聖堂に移動している。
大神官は腰を抜かしてしまい、部屋を出たとき、冷夏がリリさんと呼ぶ神官が隣の部屋でマッサージをしていた。
「あの速度で達人なら、姉の道場には達人しかいない事になります。しかし冷夏、どうやって神官戦士長の口座や至高神の暗殺司祭を調べたのですか。」
冷夏が私達が帰るまで魔族に化け、給仕をしていただけではない事は分かったが、それにしても妙だ。
「その……アヤメのお姉さんが協力してくれたんだよ。元々聖女なんて呼ばれる、きっかけは半分我らのせいだからって。」
聞けば最初に冷夏を無料診察に誘ったのは姉の手の者らしい。
冷夏が至高神の刺客に襲われたと伝え聞き
「竜の敵は我らが敵。」
と協力を申し出てくれたとの事だ。
そんな話をしていると、神官長頭が小聖堂に入ってくる。
貴族出のお飾りの大神官の下、実質的にハルピアの大地母神殿を治める実力者。
「お前を聖女じゃなくて竜と言う者がいるが、変な筒から火を吹くからか?レイカ。」
開口一番、冷夏に話かける。
「聖女でも竜でもないし、出るのは弾です。」
冷夏が少しズレた返答をするが神官長頭は無視した。
「アヤメ、歩き巫女ではなく神官戦士にならないか?神官戦士長のポストが何故か、空いてるんだが……」
続けて私にも話かけてきたが、私は黙って首を振った。
「至高神の高司祭だから、皆、遠慮してたんだが、あっさり殺ったな。」
神官長頭は笑いながら話す。
「しかし、これで聖女を殺されかけたのに黙っていた大神官も腹を決めるだろう。今日はもう帰れ。後は何とかする。」
「むぅ、私は聖女の近似値で……」
まだ無理な主張をする冷夏を宥めつつ私達は[魅惑の伯爵夫人]に戻る事になった。
権威者、権力者が裏仕事していると咎めづらいのはこの世界でも同じです。
大地母神殿の後ろ盾あっても、通常なら大問題になりそうですが……。
私の黒歴史がまた1ページ。




