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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第10章 卵料理

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卵帰る

孵るではありません。

二人で宿に向かって歩く。

尾行は距離を空けてついて来ているが、監視以上の意志は感じられない。


「アヤメ、さっきの話、まじかよ。」

俺は念の為ボソボソと話す。


「本当です。幼い頃親が決めた許婚なので、顔はもちろん名前さえ知らないですが……」


「ちげえよ!許婚の話じゃねぇよ!」

俺は思わず大声を出す。

アヤメは、いたずらっぽい目で俺を見た後、尾行に視線を飛ばした。

この距離で聴かれるとは思えないが、何らかの魔導具使用している可能性もある。


「会話の安全の為、消しときましょうか?茶渋。」

裏通りに誘導し、待ち伏せるのは多分難しくない相手だ。


だが、見れば少し前の俺と変らない感じの娘。

アヤメが斬るつもりなのは、スラムでギルドの雑用してた過去の俺。


「止めとこうぜ。話は後でも出来る。」

命の軽さに恐怖を覚えながら、宿まで黙って歩いた。

人斬りスイッチの入ったアヤメは俺の手に負えねぇよ。


宿ではブレナとデグが一足先に戻っていた。


「2人とも、お疲れ様。たまには市場で少し良い物を食べましょう。」

アヤメが全員に提案する。

もちろん、このパライバ商会から指定された宿では話しづらい事を話す為だ。


「この前食べた店が良かったのですが……。出禁になって、いなければ良いけど。」

アヤメは食事中に襲撃された店を推薦した。



「急ですが、明日に出港するハルピア行き商船に乗れます。傭兵のシイさん達が口利きして下さいました。」

リザードマン商船との交渉は問題なく済んだ様だ。

傭兵の一員として無料で乗船出来る破格の条件だという。


「では、それでハルピアに帰りましょう。証明書は得ましたので帰れば報酬が貰えます。」

アヤメが料理を取り分けながら話す。

魚と野菜を油で炒めた美味そうな料理だ。


「支店長との約束はどうするんだよ。」

小声で確認する。


「茶渋?何か約束したのですか?」

アヤメは薄っすら笑みを浮かべる。

え?

俺は会話を、もう一度思い出してみる。


[書類上10割にして、ハルピアに届くのを6割にしませんか?]


[我々[竜の卵]は同胞(リザードマン)の船で先んじて島を離れます。大丈夫、妖魔の軍船がウヨウヨしてるのです。分かりはしませんよ。]


[貴方は理由をつけて、三号船の出発だけを1日だけ遅らせる。貴方がするのは、それだけです]


[ハルピアヘ送る予定の一割の量の銀でも、充分大金になりますし、個人的に剣は少しは使えるつもりですが……。]


え?


「私はリザードマン商船で帰る報告と三号船の出港を一日伸ばす意味のない提案、剣に自信があるという自慢はしましたけど何の約束もしてません。ああ、書類の偽造も提案しましたね。」

まじかよ。

話したのは、ほのめかしだけ……。


アヤメは美味しそうに料理を食べている。

デグが、お替りを注文した。


「チャシブ、腹痛とかあるのですか?」

俺だけ食事が進んでないのでブレナが心配してくれている。


「ちげえよ。」

でも、食欲がない。

アヤメは書類も用意してたし、いつから、どこから状況読んでいたんだ?

俺は……アヤメが怖い……。


「チャシブ、『冒険者は食べられるとき食べるんだよ』って、レイカなら言う。」

デグまで心配してくれた。


俺は何とか食べきったが、味は全くしなかった。



8日後

ハルピアに俺達は無事ついた。

天候に恵まれたので、往路の大変さに比べ、スムーズな旅だった。


「いらっしゃいませ〜」

[魅惑の伯爵夫人]に入ると、見慣れた顔の見慣れぬ魔族に出迎えられた。


「皆んな〜お帰り〜むぅ」

アヤメが冷夏(レイカル)に抱きついている。

港で聖女が爆死した話を聞いた時には肝が冷えたが、[魅惑の伯爵夫人]でレイカルと言う魔族が働いていると聞いて安心した。

皆んな気づかないって、バカばかりなのか?


「あら〜アヤメさん〜店員に抱きつかれては困ります〜うちはそういうサービスしてません〜」

他の冒険者達からも注目されているのに気が付いてアヤメが離れた。


「[竜の卵]の皆さん〜お部屋に〜お食事〜お湯〜用意しますよ〜」

冷夏が店員の様に案内してくれる。


「冷夏、デポさんの話し方が感染ってます。」

アヤメが突っ込む。


「レイカルです〜」

二人の茶番に俺達は笑った。

ブレナはストレスから胃痛になり、チャシブはストレスから食欲不振になる。

2人とも優しい人物です。


私の黒歴史がまた1ページ。

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