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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第10章 卵料理

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薄ら笑い

「カンの良い……」はネットスラングにありますが、今回は当てはまらないかと……。

看板にシーフギルドの合言葉の書いてある店に入ると、店内はガラガラだった。

俺はテーブル席に座り適当に飲み物を頼む。


「竜の卵のチャシブだな」

前に座った髭面の男に、いきなり言われる。

そこまで有名人になったのはアヤメの剣の力か、デグの非情な決断の為か……。


「この島の状況が知りたい。いきなり絡まれたり、監視つけられたり、散々なんだ。」

俺が肩をすくめながら話すと髭面は笑った。


「この島の支配者、パライバ商会支店長様が焦ってるのさ。」


「鉱山の反乱で大規模粛清を敢行したはいいが、結果産出量が減り、追加の奴隷(ろうどうしゃ)もハーピーに喰われちまったからな。」


「反乱?」

俺は思わず聞き返す。


「おっと、そういや本店には秘密にしてたな。支店長はお前さんらを本店の密偵かも?と思ってるぜ」

髭面は更にニヤニヤと笑う。


「だから、お前さんらは帰りは三号船に乗せられる。[竜の卵]はヘイト買ってるからな。男はすぐに鮫のエサ。女は嬲られた後に鮫のエサだな。」

まじかよ。

俺は血の気が引くのを感じた。


「[竜の卵]のリーダーが達人でも、船員を全員叩き切っちまったら船は動かねぇ。」

髭面は話を続ける。


「この島を出るのに商会の船が嫌ならトカゲ野郎の船しかねぇ。」


「ただそうなりゃ依頼放棄。依頼放棄は報酬倍返し、お前らは詰みだよ。」

髭面のニヤニヤ笑いは止まらない。


「で、何が目的だ……。」

こいつがクソ野郎で俺等の破滅を笑いたいなら、黙って見ていればいい。

情報料も決めてないのにベラベラ喋るのには訳があるはずだ。


「話が早くて助かる。」

髭面がニヤニヤをやめ真顔になった。


「話は簡単、支店長を暗殺してほしいのさ。互いに悪い話じゃねぇだろ。」

まるで、飯でも頼むかの様にあっさりと言う。


「はい、そうですか。って言う話じゃねえな。」

俺は頭をフル回転させている。

商人の暗殺なんて、余所者に頼む仕事じゃない。

必ず裏があるはずだ。


「逃げて違約金払っても、ヤバくはなるが俺等は破滅しねぇよ。仕事をするなら隠し事はなしだ。」

ここはハッタリを効かせる。


「カンの良いメスガキは嫌いだぜ」

髭面は今度はニヤリと笑った。



髭面の話を要約すると、シーフギルドと支店長は結託し、本来の計画以上の採掘をして得られた銀を横流ししていたらしい。

銀の確保は支店長、横流しルートはシーフギルド。


ただ本来の計画以上の採掘を強いられた鉱山で大規模反乱が起こり、計画が狂い始めた。

大規模粛清で反乱は鎮圧されたが、このままでは採掘量が減り予定通りの銀をハルピア送れない。

理由もなく計画通り銀を送れなければ支店長の地位が危ういし、横流しが発覚するかもしれない。

そして支店長は裏切った。


支店長は浮浪者狩りと称して、シーフギルドのメンバーを捕らえ鉱山に送り始めた。

横流しの口封じと奴隷(ろうどうしゃ)確保の為だ。


横流しを止めて人手が確保出来れば、

「落盤事故の為、採掘の遅れがあるが次の便で採掘量を取り戻し送る。」

で誤魔化せる。

シーフギルドとしては横流しルートは諦めても、支店長の裏切りは許せない。


「なんで自前でやらねぇ?いくら田舎ギルドでも、暗殺者ぐらい飼ってるだろ。」


「奴は警戒心が強くてな。子飼いの奴らじゃ近づいただけで鉱山送りだ。」

つまり、支店長との関係が深すぎて、手の内がバレている。

もしくは様々な、しがらみから手が出せない。

そんなとこだろう。


「俺等は近づけるが殺った後逃げられねぇ。捨て駒か?」

当たり前の事を尋ねる。

支店長を殺せば、官憲は黙ってない。

捕まれば、俺等は鉱山送りだ。


「まぁそうだが、お前らは4人いる。ハゲを捨て駒にすりゃいいだろチャシブ。俺の為にお前は死ねってな。」

クソ、こいつ船での経緯(いきさつ)を知ってやがる。


「まぁ、まだ数日時間はある。じっくり考えるこった。」

また薄ら笑い浮かべる髭面を背に俺は店を出た。

じんわり沸いてくる絶望を抱えながら……。

ポリコレ配慮ですと、「男も女も嬲られてから鮫のエサ」ですかね。

価値観の多様性の矛盾は「多様性を認めない価値観を認めない」事かと思うのですが……。


私の黒歴史がまた1ページ。

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