珍獣の日々
冷夏は生前両親の影響で、[むせる]話も大好きだったりします。
「怪我人とかの治療とかしなくて良いの?リリさん。」
「聖女様は聖堂内を歩かれるだけで大丈夫です。それだけで寄付金額が鰻登りと、広報のレマナが申しておりました。」
ここ数日、私は事実上幽閉され、扱いが動物園の珍獣と変らない。
「それに修行中の神官見習いが続々と啓示を授かっているらしく、神官魔法の使い手は足りているようです。」
遠巻きに皆が聖女と崇めてくれるが、外の散歩さえ出来ない。
珍獣の気持ちがわかる日が来るとは思わなかった。
リリさんが一生懸命お世話してくれるのが唯一の救いかな?
でもそれも、私の勘違いで珍獣飼育員だったりして……。
「(ねぇマドウ啓示増えてるって。なにかしてる?)」
『何もしていない。しているとすれば冷夏だろう。』
「(私?契約で、また何か副反応的な事起きてない?)」
『起きているが契約が原因ではない。冷夏が聖女と呼ばれている事に起因する。』
「(どうゆうこと?)」
『聖女を姿なき神の化身と考える者は多い。シンボルや小難しい教義などよりも、神を身近に感じられる様になる。』
『そして神を身近に感じれば、容易に次元の壁を超えて神の力が宿る。それが啓示だ。』
「(それってプラシーボ効果だよね?)」
『まぁ、そうだ。だが思い込みと信仰の差異など僅かだ。』
「むぅ、マドウはドライだぞ。」
「如何されましたか聖女?」
リリさんが困った顔をして私を見てる。
「その聖女って、なんとかならない?リリさん。私は……」
私がリリさんに呼び方を考えてもらおうと話かけたが、それに被せて言われた。
「レイカ様は聖女です。聖女って言われた者勝ちなのです。」
「至高神の主要2派は聖女認定出しますが、お互い他派の聖女を認めたがりませんし、他の神の聖女なんて尚更です。」
「でも、皆に呼ばれている聖女を否定すると外聞悪いので認めます。」
「つまり、呼ばれた者勝ちなわけね。」
リリさんの言葉を引き取る。
リリさんは私からすれば、普通に喋る。
でも、本人は喋るのが苦手と思っているみたい。
たまに大地母神のシンボルに向けて、1人喋る練習をしているから。
夜
「冷夏さん〜面会にきましたよ~[竜の卵]から聖女が産まれたと噂ですよ~」
美味しそうな匂いのするバスケット片手にデポさんが訪ねてきた。
「デポさん〜娑婆に帰りたいよ〜」
デポさんの口調を真似るとリリさんが驚きで固まる。
「聖女様も軽口が話せるのですね。」
う~ん、リリさん。
だから私は聖女の器じゃないんだよ。
「差し入れです~。仕事なので訊きます〜[竜の卵]はどうなりましたか~」
デホさんが真面目な顔をする。
「ムッカ島でミノタウロスに蹴散らされて、はぐれたんだよ。でも、照明弾見てから転移してきたから、多分無事だと思う。怪我してたアヤメだけ少し心配かな」
「ムッカ島研究所ですか〜」
デポさんは何か納得した顔をしている。
ん?研究所?!
「デポさん何か知ってるよね?年代物の魔族だもんね。」
私は探る様に視線を向ける。
「人をヴィンテージみたいに言わないでください~ちょっとお姉さんですけど~」
いや、ちょっとじゃないでしょ?
「昔ばなしを希望なら〜魔王戦争終戦間際に〜味方の研究所を襲ったある魔族の[むせる]話をします〜」
「う~ん、せっかくの差し入れの珈琲が苦くなりそうだから遠慮するよ。」
その後、私とリリさんで差し入れのバケットサンドを貪り、珈琲を啜った。
リリさんは貴族だけど、珈琲初めてだそうだ。
美味しいゴハンの為にも、娑婆に戻らねば……目指せ脱珍獣。
冷夏の飲むハルピアの珈琲は苦い。
(ウソです)
私の黒歴史がまた1ページ。




