勝負時
心理学的に、嫌いでなければ、物理的近い人物が……
ムッカ島を出てから三日、俺らの二号船がラチア島に到着すると、港では歓声で迎えられた。
これは困難を乗り越えた事を称えるよりも、積み荷の食料が無事届いた事によると思う。
一号船、三号船は既に到着しており、港には、その二隻の他に竜の島からのリザードマン商人の船が停泊していた。
ただ話を聞くと三号船もついたのは一昨日で、ハーピー岩島沖では積み荷の半分をハーピーの為に投棄したらしい。
そう、積み荷の人間を半分……。
「湯屋に行ってくる。」
デグが一人、パライバ商会にあてがわれた宿、[灰引屋]を出てゆく。
この宿にも金さえ払えば、湯に入れるサービスはある。
デグが行くのは女性が背を流してくれる(勿論それだけなはずがない)湯屋だ。
「レイカが居ないと、途端にかよ。」
俺はデグに聞こえる呟くが、完全に無視された。
「チャシブ、私達は宿の湯殿に行きますよ。」
一人頭、銅貨2枚を払いアヤメとブレナと共に別棟に向かった。
無論、混浴ではない。
「アヤメは肩だけなんだな。」
汗と脂と潮の汚れを落としながら話す。
髪に、こびりついた汚れは中々落ちない。
「そう、だから[竜硬化]は事実上使えません。」
そういえば、アヤメが竜力を使ったのを見たことがない。
「それに剣術の師範から『お前は竜力は極力使うな』と教えられてきました。」
え?
たとえ少なくとも、竜人なら竜力を使えば有利に戦える。
命のやり取りするのだから、使える力は使うべきだろう。
「少ない竜力に頼るぐらいなら、剣の技を積み重ね磨けって、でもミノタウロスには届かなかった。」
溜息を吐いたあと、アヤメはキッパリ宣言した。
「もし冷夏が無事でなかったら、私は腹を切ります。」
「待てよ。アヤメ、レイカは無事だよ。絶対だ!」
もし、レイカを失い、アヤメまで失ったら……。
俺は動揺した、湯に近いのに体が震える。
「では、茶渋はデグを信じてるのですね?」
う、それは……。
「信じてるなら、厳しい態度は改めるべきではありませんか?」
湯で体を流しながらアヤメが話す。
「うん、ああ、善処する。」
俺は汚れを落とし終え、湯船に向かった。
「流石下級神官です。チャシブ、アヤメさんにうまく丸め込まれましたね。」
湯上がり、ブレナの部屋を訪ね、アヤメと話した経緯を話すとそう言われた。
ブレナの入った男湯もリザードマンが3人いただけで、ゆっくり入れたそうだ。
「でも、まぁ、わだかまりはない方が良いですよ。[竜の卵]の仲間なんですから。」
隣にいるブレナから脂っぽい匂いが抜けている
「でもよ。冷夏の為に死ねって……」
俺の育ったスラムでは[俺の為にお前は死ね]は常識だった。
だから、俺はスラムを出て冒険者になったのに……。
スラムの常識に追いかけられてる様だ。
「それはデグさんの誠意ですよ。黙っていれば分からない事だったのですから。」
ブレナは優しい。
冒険者としては駄目な資質かもしれないが俺は気にいっている。
「それに冷夏が居ないからって湯屋に行くのはどうよ」
俺は、この時点では完全に失念していた。
「それは個人差はありますが、男と女で衝動が異なりますから……」
ブレナが早口で話す。
「じゃあブレナはどう……」
そこで気付いた。
この部屋はデグとブレナの部屋だが、デグは居ない。
居るのは湯上がりで薄着の俺とブレナだけ。
「勿論、衝動はあります。でも無理強いや、金銭で解決はしたくありません。」
すぐ隣にブレナがいる。
いやに近い。
「でも、まぁ、互いに誠意と情熱が合うなら……」
どうする?どうするよ?茶渋。
自問自答する。
「チャシブ、その……鱗の位置を……いや、その」
ブレナの顔が紅いのは湯上がりだからではないと思う。
俺の顔も今そうなっているだろう。
「背中だって、知っているだろ……。でも……まぁブレナが改めて確認したいなら……俺も……」
部屋に戻らない事でアヤメには、わかってしまうのが気まずい。
ブレナの部屋に行くと言ってきたからだ。
でも、乙女には勝負しなくてはならない時があるんだ。
この世界は人間は15で成人します。
竜人も成人年齢は準じます。
教育に悪くないよ~(笑)
私の黒歴史がまた1ページ。




