ムッカの番人
遺跡探索、一攫千金はロマンです。
現実では盗掘は文化の研究を妨げる、人類に対する犯罪です
孤島の森の中は思っていたより豊かだった。
食用出来そうな動物は居ないが、食べられそうな植物が、そこかしこに生えている。
エルフの住む森の成れの果てかもしれない。
「どうやら先客がいるようだ、アヤメ」
チャシブさんが遺跡への道に付いていた足跡を見て言う。
「人数は6人。遭難者ではなく冒険者だな。ラチア島で漁船をチャーターしたんだろう。」
一号船が予定通りラチア島についていればタイミング的には丁度だ。
冒険者の中には遺跡探索を生業の一つにしている者もいると聞く。
「我々は水樽に水が汲めれば遺跡に用はありませんよ。チャシブ。」
ブレナさんが、やんわり諭す。
「けどよ、そいつ等が敵対的かもしれねぇだろ?」
基本的に人を信じているブレナさんと、信じてないチャシブさん。
今の自分は……。
「ねぇチャシブ、遺跡探索って、大っきい球に追いかけられたりするやつだよね?」
レイカ様がそう尋ねて、聞いたことのない旋律を口ずさむ。
「なんか違うし、罠にかかったらダメだろ」
チャシブさんの返答に何故かアヤメ殿が苦笑した。
泉に着くと、その近くには醜悪な石像の残骸が複数転がっていた。
思ったより泉は広い。
近くには野営のテントも張られている。
「どうやら、ここをベースキャンプに遺跡探索に臨んでいるみたいですね。」
石像の残骸を調べながらブレナさんが言う。
「彼らにとって私達がくるのは想定外のはずです。早めに水汲んで引き上げましょう。」
遺跡探索の冒険者とは顔を合わせないに限る。
アヤメ殿は、そう判断したらしい。
船員達に取水を急がせる。
「むぅ、この広さなら時間があれば水浴びしたかった……。」
レイカ様が残念そうに呟く。
航海では水は貴重品だ。
確かにハルピアを出てから体を拭くのでさえ苦労している。
「水浴びされるなら是非に。覗いたりしませんし、水も旨くなりそうですし」
船員達の1人が冗談ぽく言い、何人かの船員が頷いている。
「馬鹿野郎共!くだらない話してないで、とっとと水を運べ!」
チャシブさんがキレる。
浜辺と泉を何度か往復し、そろそろ二号船に引き上げ様かというとき、それは現れた。
最初、金属鎧の歩行音がしたので遺跡探索の冒険者がキャンプまで帰ってきたのかと思った。
だが、茂みからのっそりと現れたそれは、がっしりとした筋肉質の人間の肉体に牛の頭がついている。
筋肉量や体格は以前戦ったオーガと遜色がない。
「なんだよ?新種のオーガかよ!」
チャシブさんが驚きの声をあげる。
「ミノタウロスだよ。茶渋」
レイカ様が火縄を火鋏にはさみながら話す。
アヤメ殿は船員達に退避を命じ、ブレナさんは詠唱に入っている。
自分は前に出た。
風切り音がして、ミノタウロスの振るうポールアックスが迫る。
こちらもバトルアックスを振り、攻撃をいなす。
筋肉に物を言わせた強引な切り返し、バックステップで躱す。
わずかに掠めた。
掠めただけだが苦痛がきて、鮮血が飛び散る。
強い!
乾いた音がした。
ミノタウロスの胸甲が少し凹み、苦痛の呻きを上げる。
[加速突進](使1残29)
ミノタウロスがレイカ様の方に頭を下げ急加速した。
自分はミノタウロスの動きに対応出来ない。
「あぶねぇ!」[竜疾走](使1残5)
チャシブさんがレイカ様を突き飛ばし、自身はミノタウロスの突進を跳躍し躱した。
「ひぃ、ふぅ、みぃ」
アヤメ殿が抜刀し、すかさず斬りつける。
だが、ミノタウロスはポールアックスで刀を跳ね上げ、柄を返してアヤメ殿の脇腹を強打する。
骨が砕ける嫌な音がして、アヤメ殿が吹き飛ぶ。
[幻影濃霧](使1残5)
ブレナさんの詠唱が終わり、ミノタウロスを中心に濃い霧が噴き出す。
「今の内に撤退しましょう!デグ、アヤメに肩を貸して。チャシブ援護を!」
ブレナさんが指示を出す。
「ほら、牛野郎こっちだ!」
チャシブさんが、わざと大声を出しミノタウロスを誘う。
[加速突進](使1残28)
[竜跳躍](使1残4)
何とか立ち上がったアヤメ殿に肩を貸し逃げる。
アヤメ殿は祈りを唱えようとして、血を吐いた。
神聖魔法は使えない。
[治癒](使1残2)
自分の簡単な癒しでは、どこまで治ったか分からないが吐血は止まった。
だが、激しく咳き込み、息が足りないせいか意識が朦朧としている。
「デグ、急ぎましょう。霧が風で晴れる前に。」
完全に気を失ったアヤメ殿を抱えブレナと砂浜に向け走った。
冷夏の鼻歌は[メジャーじゃない考古学者]のテーマです。
(わかりにくくすいません。古い冒険活劇映画です))
私の黒歴史がまた1ページ。




