ムッカ島
ゴブリンは世界中に住み着いています。
そう、人間の様に……。
ハーピー岩島の横をすり抜け二号船は北に向かう。
竜の力で跳躍し短剣を投げ、またブレナを庇った茶渋は冷夏を畏怖した目で見つめている。
わかっている。
わかってはいるが、茶渋が羨ましい。
私に彼女の様な竜力はない。
「アヤメ殿、当船は迷子にならずに済みました。が、水が乏しくなってきました。ラチア島に向かう前に、水が補給出来る島に寄りたいのですが……」
船長が許可を求めてくる。
もとより船の航行に関しては、私達が干渉する事はない。
その旨を伝えると、船長が申し訳なさそうに告げてくる。
「それなんですが、船員達を上陸させる時[竜の卵]に護衛について欲しいのです。」
「それは勿論、構いません。その島にはなにがあるのですか?」
護衛が必要な真水が出る島。
なにか理由があるはずだ。
「その……ムッカ島には古い遺跡が有りまして……真水の湧く泉が、その遺跡の近くにあります。」
「それで?」
話の続きを促す。
「その遺跡から以前、ガーゴイルが出たのです。」
ガーゴイル?ゴーレムの一種だと思うが詳しくは知らない。
「わかりました。仲間にも伝えておきます。」
ブレナに訊いてみよう。
厄介な相手でなければ良いのだが。
夕方
「ガーゴイルですか。」
[竜の卵]で集まり、船長からの話をして情報をすり合わせる。
「魔法で動く空飛ぶ石像だろ?」
茶渋が言う。
私の認識もそんな感じだ。
「いえ、ゴーレムとは違いガーゴイルは自立型に設計されています。」
ブレナが説明する。
「ですから、不意をつく、非戦闘員から狙う、不利なら逃走する、など自己判断する厄介な相手です。」
流石は正魔術師、魔術知識は豊富だ。
「でも、一度壊されたら再生したりはしないんだろ?」
茶渋が確認する。
「そうですね。ですから、まだ襲ってくるガーゴイルが残っていればの話ですね。」
以前の遭遇で全て破壊されていれば脅威はない。
「俺の武器では、石像相手では手が出ねえからな。」
茶渋が肩をすくめた。
岩に斬りつけるのは[杜若]でも厳しい。
折れはしないだろうが、斬るのは無理だろう。
いわんや短剣では……である。
「しかしガーゴイルとは……。魔王戦争時の魔族の研究施設ですかね?何らかの設備が生きていると厄介です。」
心配そうにブレナが話す。
「魔族の遺跡なら、お宝有るかもしれないだろ。」
チャシブは遺跡に興味ある様だ。
「遺跡には番人が付き物です。事前調査なしの遺跡探索は自殺行為です。」
ブレナが珍しくキッパリと断言した。
翌日
無人島のムッカ島に港はないので、二号船は沖合に投錨した。
海岸線の砂浜までは、船員の漕ぐ三艘の小舟で近づく。
私達は水を入れる樽の隙間に座っている。
「しかし妙な島ですね。」
ブレナが独り呟く。
「そうだな」
デグが珍しく答える。
「んだよ。なにかあるなら話せよ。デグ」
茶渋がブレナでなくデグに訊く。
「そうだよ。違和感覚えたら話してデグ。前にミ……さんが言ってた。その違和感が生死をわけるからって。」
冷夏がミケさんの名前を呑み込んだ。
しかし、訊くのはやはりデグ。
「ゴブリンが居ない」
デグは一言だけ。
「この規模の島で、真水が出るならゴブリンが住み着かないとは考えてにくいのです。」
ブレナが補足する。
「食い物がないとか、それこそ遺跡に住んでるかも知れないだろ。」
「ゴブリンは魚ぐらい捕りますし、縄張り意識強いので、居れば覗き見ぐらいしてきます。」
つまり、ゴブリンが住めない理由がこの島にはある。
ガーゴイルが稼働している可能性は高い。
そうしているうちに砂浜に舟が乗り上げる。
空の樽を持った船員達と遺跡の方に向かった。
魔族の遺跡には人間で作り得ない魔導具が眠っています。
大抵は魔族の造った魔獣と共に……。
私の黒歴史がまた1ページ。




