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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第10章 卵料理

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ムッカ島

ゴブリンは世界中に住み着いています。

そう、人間の様に……。

ハーピー岩島の横をすり抜け二号船は北に向かう。

竜の力で跳躍し短剣を投げ、またブレナを庇った茶渋は冷夏を畏怖した目で見つめている。


わかっている。

わかってはいるが、茶渋が羨ましい。

私に彼女の様な竜力はない。


「アヤメ殿、当船は迷子にならずに済みました。が、水が乏しくなってきました。ラチア島に向かう前に、水が補給出来る島に寄りたいのですが……」

船長が許可を求めてくる。

もとより船の航行に関しては、私達が干渉する事はない。

その旨を伝えると、船長が申し訳なさそうに告げてくる。


「それなんですが、船員達を上陸させる時[竜の卵]に護衛について欲しいのです。」


「それは勿論、構いません。その島にはなにがあるのですか?」

護衛が必要な真水が出る島。

なにか理由があるはずだ。


「その……ムッカ島には古い遺跡が有りまして……真水の湧く泉が、その遺跡の近くにあります。」


「それで?」

話の続きを促す。


「その遺跡から以前、ガーゴイルが出たのです。」

ガーゴイル?ゴーレムの一種だと思うが詳しくは知らない。


「わかりました。仲間にも伝えておきます。」

ブレナに訊いてみよう。

厄介な相手でなければ良いのだが。



夕方

「ガーゴイルですか。」

[竜の卵]で集まり、船長からの話をして情報をすり合わせる。


「魔法で動く空飛ぶ石像(ゴーレム)だろ?」

茶渋が言う。

私の認識もそんな感じだ。


「いえ、ゴーレムとは違いガーゴイルは自立型に設計されています。」

ブレナが説明する。

「ですから、不意をつく、非戦闘員(よわいもの)から狙う、不利なら逃走する、など自己判断する厄介な相手です。」

流石は正魔術師、魔術知識は豊富だ。


「でも、一度壊されたら再生したりはしないんだろ?」

茶渋が確認する。


「そうですね。ですから、まだ襲ってくるガーゴイルが残っていればの話ですね。」

以前の遭遇で全て破壊されていれば脅威はない。


「俺の武器では、石像相手では手が出ねえからな。」

茶渋が肩をすくめた。

岩に斬りつけるのは[杜若]でも厳しい。

折れはしないだろうが、斬るのは無理だろう。

いわんや短剣では……である。


「しかしガーゴイルとは……。魔王戦争時の魔族の研究施設ですかね?何らかの設備が生きていると厄介です。」

心配そうにブレナが話す。


「魔族の遺跡なら、お宝有るかもしれないだろ。」

チャシブは遺跡に興味ある様だ。


「遺跡には番人が付き物です。事前調査なしの遺跡探索は自殺行為です。」

ブレナが珍しくキッパリと断言した。



翌日

無人島のムッカ島に港はないので、二号船は沖合に投錨した。

海岸線の砂浜までは、船員の漕ぐ三艘の小舟で近づく。

私達は水を入れる樽の隙間に座っている。


「しかし妙な島ですね。」

ブレナが独り呟く。


「そうだな」

デグが珍しく答える。


「んだよ。なにかあるなら話せよ。デグ」

茶渋がブレナでなくデグに訊く。


「そうだよ。違和感覚えたら話してデグ。前にミ……さんが言ってた。その違和感が生死をわけるからって。」

冷夏がミケさんの名前を呑み込んだ。

しかし、訊くのはやはりデグ。


「ゴブリンが居ない」

デグは一言だけ。


「この規模の島で、真水が出るならゴブリンが住み着かないとは考えてにくいのです。」

ブレナが補足する。


「食い物がないとか、それこそ遺跡に住んでるかも知れないだろ。」


「ゴブリンは魚ぐらい捕りますし、縄張り意識強いので、居れば覗き見ぐらいしてきます。」


つまり、ゴブリンが住めない理由がこの島にはある。

ガーゴイルが稼働している可能性は高い。


そうしているうちに砂浜に舟が乗り上げる。

空の樽を持った船員達と遺跡の方に向かった。

魔族の遺跡には人間で作り得ない魔導具が眠っています。

大抵は魔族の造った魔獣と共に……。


私の黒歴史がまた1ページ。

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