死神の巫女
星の位置からして多分この辺。
by航海士
「ほら、嬢ちゃん短剣」
若い船員の1人がマストに刺さった投げ短剣を返してくれた。
一本銀貨10枚もするので、無くすと痛い。
だが、日当銀貨10枚の破格の仕事中だと、そこまで高くないと感じる。
金銭感覚が麻痺してきてるんだろうな。
「ところで嬢ちゃん、竜人だろ。鱗の場所教えてくれよ」
「お断りだ。」
竜人に見た目で分からない位置にある鱗の位置を訊くのは、性交渉を求める隠語だったりする。
俺は寝床で稼ぐ商売は選ばなかったんだ、安売りはしねぇよ
「そこ!油売ってるな!」
船長が船員を、どやしつける。
若い船員は、
「気が変わったら教えてくれ」
といって仕事に戻っていった。
「少し南に流されてしまったようですね。」
俺の鱗の位置など気にしなさそうなブレナが、航海士から話を聞いて戻ってきた。
まぁ隠語ではない意味では背中の鱗を偶然とはいえ以前、見られてはいるのだが……。
「一号船、三号船とも、姿見えませんがどうなったことやら。先ずは北北西に進路をとるみたいですよ。」
レイカ達の方に向かうブレナにくっついてゆく。
船員は野郎ばかりだから、1人では居ないほうが良さそうだ。
「聖女さま、喉は乾いてませんか?」
「ご気分はいかがですか?」
通りすがりの船員がレイカに声をかけてゆく。
甲板に叩きつけられ、瀕死だった2人の船員を、それぞれ1度の神聖魔法で癒してから船員達のレイカへの態度は大きく変わった。
嵐を抜けた後、手立てがないと海に放り込まれそうだったところをレイカは救ったのだ。
それどころか、嵐での対応で負傷した船員たちも次々癒やした。
最初、船員を癒しても金は払えないし、本部も経費に加えてはくれないと渋った船長も、
「もちろん無料で良いよ。」
とのレイカの言葉に感激し、感謝している。
本人に自覚はなさそうだが、デグを傍らに侍らせ、佇むレイカは聖女にしか見えない。
十日後
「斥候ハーピーが二羽近づいてきます」
マストの上から船員の声がかかる。
「ハーピー岩島は見えるか?」
船長が怒鳴り返す。
「北に見えます。」
船員が報告を返してきた。
「船の位置は確定しましたね。デーマンタイト諸島の南方です。これより南には例の鳥糞のタイト島があるぐらい。北に向かえばラチア島ですよ。」
ブレナが落ち着いた口調で話す。
多分ブレナは今のヤバさが、わかってない。
「弓だ、弓持ってこい。」
「マスト降ろせ、燃やされるぞ!」
「見張りは早く甲板に降りろ。」
戦闘準備の鐘が鳴らされ、船員達が慌ただしくなる。
斥候ハーピーが二羽、船のはるか上空を一度通過し、輪を描きながら徐々に降りてくる。
島の方からもう二羽接近してきた。
「もう二羽来るぞ、不味いんじゃないか?」
俺は船長に叫ぶ。
妖鳥ハーピーは集団で狩りをする。
先ず斥候が獲物を見定め、与し易いと見れば一斉に襲いかかる。
魔獣ハーピー程では勿論ないが、魔術も使うし、接近しても実力は並の兵士と遜色ない。
魔王戦争時の伝説では飛行速度が3倍のカラフル羽根ハーピーが、乱戦のなか[火球]を使い5隻軍船を沈めた話もあるが、それを除いてもハーピー襲撃は悪夢だ。
それを防ぐには斥候に、「侮りがたい」と報告させるしかない。
[光の矢](使1残5)
ブレナの馬鹿!不用意にハーピーのヘイトかうな!
[魔術抵抗](使1残4)[炎の矢](使1残4)
ハーピーのペア連携を侮れば魔術師など瞬殺される。
[竜疾走][竜硬化][竜火耐](使3残3)
ブレナを突き飛ばす、背中に魔術火矢が
3本当たる。
が、硬化した鱗によりダメージはないし、竜の力で火傷もしない。
ただ服は燃え始める。
しかし不味い。
魔術師と弓兵は真っ先に潰される。
遠距離攻撃の追撃を防ぐ手立てが俺にはない。
乾いた音がした。
一羽のハーピーが海上に墜落する。
レイカの種子島だ。
そうか!ハーピーは種子島を知らないんだ。
相棒を失ったハーピーが仲間を助けようと海上に向かう。
もう一度乾いた音。
海上に向かった一羽も墜落した。
まじかよ、装弾早えし、狙いは正確。
レイカは化物かよ。
船員達も何が起きたか判らず固まっている。
後から接近していたハーピーは近づかず引き返してゆく。
ブレナがマントでくるんでくれて、服の火は消えた。
「チャシブ、背中大丈夫?」
レイカから、独特の匂いがする。
あとから硝煙の香りと聞いたが、その時は死の匂いを漂わせ近づくレイカの背後に死神が見えた気がした。
火縄銃は早合を用意し、訓練を積むと思ったより早く発射出来るそうです。
魔法の火縄銃は集弾率とか上昇しています。
私の黒歴史がまた1ページ。




