船旅
島に(鉱山奴隷でなく)行きたい人は旅費を払い、一号船に乗ります。
[竜の卵]は半ば客人扱いです。
パライバ商会の3隻からなる船団は朝一にハルピア港から出港し、デーマンタイト諸島に向け進んでいる。
船はそれぞれ積荷が違い、我々[竜の卵]が乗る二号船は食料品が主な積荷だ。
先行する一号船は島で生産出来ない雑貨や武具、日用品等を積んでおり、三号船は人間を積んでいる。
「アヤメ達に拾われなかったら、俺らは遠からず三号船に積み込まれてたな。」
いつの間にか隣にいたチャシブが、さらっと話した。
だが、決して冗談ではない。
ラチア島にある銀鉱山の主な労働者は借金で自らの身を売り渡した債務者と鉱山送りになった犯罪者。
どちらも[冒険者の成れの果て]と言われているからだ。
「船旅は初めてだよ。やっぱり帆船はロマンだね~」
レイカさんが海を眺めながら言う。
何人もの船員がその姿を目で追い、船長が、それをどやす。
レイカさん達が潜伏していた、この3日間で「大地母神殿に聖女が現れた」とハルピアの街中に噂が広まり、その正体として[竜の卵]のレイカの名が囁かれていた。
まぁどうやら、事実なのだが……。
そうでなくても、アヤメさんと並んでいるだけで絵になるから、男ばかりの船員には目の毒かもしれない。
「やっぱり、その……ブレナもレイカが気になるか?」
隣にいるチャシブが自分の視線の先を見て、何故か遠慮がちに訊いてくる。
「それは……まぁ、魔術師なら契約者たる大魔法使いは気になります。それでいて聖女で間違いない神力ですから」
正直に答える。
「そ、そうか……なら、いい、うん。」
なにか納得した様な、残念な様な、それでいて安心した様な、複雑な表情をチャシブは浮かべた。
三日後
風を受け、まるで翔ぶ様に3隻の船は海原を進んでいる。
が、だんだん雲が出てきて、風も強まってきた。
「お客人達を俺の部屋へ案内しろ。」
船長の命で[竜の卵]は上位甲板にある船長室に移った
やがて雨が降り始め、波も高くなり始める。
前方に開いた窓から雨が室内に吹き込む。
「野郎共、帆を降ろせ!」
出発前に聞いていた予想より天候が崩れるのが早い。
大きく揺れる船内で船員達が慌ただしく操船作業を始める。
「おい!何やってやがる。」
一人の船員が大きく揺れる船の影響でマストから足を滑らせ、甲板に叩きつけられた。
それにその際、落ちまいとロープを掴んだ為ロープが絡まり、帆が降りない。
風が増々強くなり、帆が風を受けてさらに揺れる。
「クソ!風で流されてやがる。それにこのままじゃ船が持たねぇ。」
「誰かマストに登って帆を落とせ!」
船長が叫ぶ。
激しく揺れる甲板を渡り、一人の船員がマストまでたどり着いた。
が、とても上まで登れない。
途中で落ち甲板に叩きつけられた。
浮遊魔法を使おうかと考えたが、この揺れでは詠唱が覚束ないし、多分船から飛び出してしまう。
浮遊魔法は、ゆっくりとしか移動出来ない。
船が軋む音が大きくなった。
このままでは全員海の藻屑になりそうだ。
「チャシブ、こっちヘ。」
アヤメさんがチャシブを呼んでいる。
「あのロープを切れば帆は落ちます。短剣投擲で切って下さい。チャシブ。」
この揺れるなか一目で状況を見切る。
レイカさんは規格外だが、アヤメさんもまた只者ではない。
「この揺れでは狙えねえよ。アヤメ」
チャシブが床に伏せながら言う。
レイカさんはデグさんに抱きかかえられ、ようやく揺れに耐えている。
アヤメさんはチャシブの背中を軽く叩く。
「揺れなければ、良いだけです。」
チャシブの背中には鱗がある。
前に偶然見てしまい、酷く怒られた。
「まじかよ。曲芸かよ。」
チャシブは毒づくが、バランスをとりつつ船長室を出た。
[竜跳躍](使1残5)
二〜三歩助走をつけ、チャシブが跳躍した。
チャシブの小さな体が、信じられない高さに跳び上がり、緩やかな放物線を描きながら跳んでゆく。
そして、その放物線の中央到達点でロープに向けて短剣を投げた。
重い音をたて帆が甲板に落ちる。
短剣はマストに刺さり、チャシブは揺れる船ヘ見事に着地した。
[竜跳躍](使1残4)
チャシブが再度跳躍し戻ってきた。
船の揺れはマシになっている。
「ブレナ、窓閉めろよ。もう俺らに出来る事はねえよ。」
雨に濡れた頭を拭きながらチャシブが言う。
自分は固い金具を動かし、雨が吹き込む窓を閉じた。
浮遊魔法は基本上下にしか移動出来ません。
飛翔魔法は魔力を消費して飛ぶので、翼がない場合は魔族でさえ、あまり使用されません。(翼があると魔力消費が極端に減るとお考え下さい。)
転移魔法は(大魔法以外は)儀式に時間かかり、行き先も限定的です。
つまり陸を旅をする動力は筋肉が主です。(動物に乗る、自力で歩く)
私の黒歴史がまた1ページ。




