まじかよ
他の小説にある様な冒険者ランクはこの世界にはありません。
「アヤメ、ブレナに使っているお金だけど、俺が……。」
チャシブさんが遠慮がちに声をかける。
「大丈夫だよ、チャシブ。銀貨5枚ぐらいパーティー資金から出すよ。」
レイカ様が安心させる様に言う。
「違いますよ~チャシブさんはブレナさんに良いとこ見せたいのですよ~」
デポ姐さんが、からかう。
「な、!ち、違う。そんなんじゃねぇ。」
顔を赤らめたチャシブさんが否定する。
一時期混雑した[魅惑の伯爵夫人]も、随分落ち着いた。
ただ食事の良さが広まり、食事時は前より混む様になったし、[竜の卵]の噂を聞いた新米冒険者が顔を見せる様にもなった。
金貨20枚の謝礼を渡す所をさりげなくアピールしたデポ姐さんの勝利だろう。
「デグさんは〜走り込みですか〜チャシブさんも連れてって下さい〜」
食事を終え宿を出ようとした自分をデポ姐さんが呼び止める。
「アヤメさん〜、レイカさんは〜私と一緒にハーピー商会にお呼ばれです~。」
月に1度の豪商達の会合にデポ姐さんが呼ばれ、アヤメ殿とレイカ様はその護衛。
出席者は2名までお供をつけられるので[竜の卵]の2人を付けてゆくとの事だ。
「報酬の金貨4枚は〜いつもどうりの処理で良いですよね~」
「うん、お願いデポさん。」
わざとらしいデポさんの台詞に疑いなく返答するレイカ様。
アヤメ殿は苦笑している。
(俺等もゴールドランクの冒険者に……)
幾つかの囁きが聞こえるのを背に宿を出た。
「俺は、つい先日まで吟遊詩人の歌う腕利きの金持ち冒険者は嘘だと思ってた……。稼いだ銅貨を仲間と、チマチマ数えるのが冒険者だと本気で思ってた。」
後から付いて来るチャシブさんが話す。
「銀貨5枚って言われたら、けっこうヤバイ橋渡る覚悟をしなきゃと……」
レイカ様らと居ると麻痺してしまうが、駆け出しの冒険者は皆チャシブさんの言うとおりだ。
ロバートさんやミケが当たり前に金貨、銀貨の仕事を受けてきたのは冒険者としての格の違いによるものだった。
「ち、ちょっと、待てデグ。」
チャシブさんに話かけられ止まった。
「……ま、毎日……こんなに走ってるのか……」
チャシブさんの息が、あがっている。
「ロバートさんから、冒険者が走れなくなった時は死ぬ時だと……。」
「それに普段はアヤメ殿も、これくらいなら普通に走る。」
「……まじかよ……。」
その後、簡単な昼食をはさみ郊外の大地母神殿で夕方までチャシブさんと鍛錬した。
夕方
いつもの様に兄者の眠る墓前にきた。
花も灯明もない冒険者の共同墓地だが、この街に滞在している限りは、なるべく来ようと思っている。
「誰か知り合いがいるのか?」
「兄が……」
チャシブさんの問に答える。
雨が降り始めた。
辺りが急に暗くなってくる。
「んだよ急に!早く戻ろうぜ」
駆け出そうとしていたチャシブさんの腕を掴み止める。
「前と同じだ。亡者が来る。」
「……まじかよ……。」
怯えた顔をしてチャシブさんが呟いた。
前書きで冒険者ランクはありませんと書きましたが、[冒険者の店]ではパーティーをランク付けしています。
もちろん冒険者には秘密で……。
例えば使い捨ての冒険者を10名前後と言われたら、使い捨てレベルのパーティーに声かける。
VIP警護なら、それなりに見栄え良く強い。
など派遣する側の信用に、かかわるからです。
商品のランク付けをしない冒険者の店はありません(笑)
私の黒歴史がまた1ページ。




