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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第9章 再始動

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混濁

疲労は奇跡で癒やせますが、心労は……。

棚の片隅の小石に飛びつき、赤毛のヴァンパイアの前に突きつけた。

[魔族殺しの魔石]

[魔力探知]程度では爆発しないが、攻撃魔法レベルだと爆発する。

[おのぼり]3人を殺した様に、魔術は容易に人を殺す。

ヴァンパイアに自由に魔術を使われては[毒の霧]で一瞬で皆殺しになるだろう。


「あら?魔術使わないなら(やいば)で殺すだけですわよ?」

ヴァンパイアは短剣を抜いた。

このままでは一方的に嬲り殺される。

こちらはヴァンパイアに、かすり傷一つ付けられないのだから。


「(アロン、サムス一斉に走って逃げる。生き延びたら宿で会おう)」

小声で2人に伝える。


サムスが雄叫びを上げて、それを合図に走り出す。

雄叫びに驚いたヴァンパイアの反応が一瞬遅れ自分と、もう1人が扉から飛び出せた。

それがアロンなのか?サムスなのか?は分からない。


灯りのランタンはジェーンが部屋に置いてあったきり。

あたりは暗く予備の灯りもない中で、ただ、ひたすらに走った。

息の続く限り全力で走り、走り、走り、やがて意識を失った。



見知らぬ森の中で目が覚める。

一瞬、記憶が混乱し何が起こったか理解できなかったが、直ぐに記憶が戻ってきた。

後から断末魔の絶叫が聞こえた事、前庭で[おのぼり]達の死体がゾンビとして立ち上がり初めていた事を断片的に思い出す。

自分1人だ。

握りしめていた[魔族殺し]を投げ捨て、立ち上がった。

全身が軋む様に痛む。

ハルピアの方角を見定め歩き始めた。



目が覚めた。

何処かの部屋。ここは何処だ?

扉が開き、レイカさんと目があった。


「チャシブ!ブレナさん気がついたよ。」

レイカさんが、振り向き声をかける。

チャシブが駆け込んできて、抱きついてきた。


「馬鹿野郎。馬鹿野郎。」

泣きながら、しがみつくチャシブを宥めながら暫く呆然としていた。



[竜の卵]に話を聞くと、3日前に自分はハルピアの街中で、行き倒れているのを治安傭兵に発見されたらしい。

通常なら行き倒れなどは無視されるのだが、知った顔だった為[魅惑の伯爵夫人]に連絡が行き、チャシブが引き取ってくれたのだ。

その後、数日眠り続け、今に至る。


「俺が抜けて何があった。アロンとサムスはどうした。」

チャシブに問われ、こちらが話す番になった。

怪しげな神官の依頼を受け、アンデッドと戦う羽目になり、そして命からがら逃げ出した事を包み隠さず話した。


「アロンさんとサムスさんが[森の若木亭]に戻った形跡はありません。」

アヤメさんが残念な事実を教えてくれた。


「はいスープですよ~。お話聞くにジェーンさんは確信犯ですね~。」

さらに療養に数日を要した。

今までの心労や疲労が噴き出し、発熱して寝込んだのだ。

デポさんからは滋養のあるスープと冒険者の店が果たす役割についての、お説教をもらった。

しかし、もうパーティー資金を流用しても手持ちが厳しい。

「宿代、食事代についてですが……」

おそるおそる申し出ると。


「[竜の卵]が全額立て替えてます〜。事実上[エール樽]は壊滅〜[竜の卵]には魔術師がいません〜」


「それは……」


「仲間を紹介するのも〜冒険者の店の仕事です〜いかがですか〜?」

事実上選択肢はない。

これ以上ない良い誘いだが、アロン、サムス、に対して後ろめたい気持ちもある。


「即決は求めません〜冷めないうちにどうぞ〜」

デポさんはスープを置いて出て言った。

心労も奇跡で癒せるか?

精神に作用するそれってどうなの?

答えのない考察はファンタジーの醍醐味です。


私の黒歴史がまた1ページ

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