希少本
ろくな教育機関がなく、印刷技術もない、この世界での知識の習得は時間がかかります。
小さな神殿の内部は思ったより荒れておらず、確かに何物かが住んでいる痕跡があった。
ただ盗賊が住んでいる可能性は低い。
ジャック・オー・ランタンと共存しているのなら盗賊ではなく、死霊術師になるだろう。
まぁ、何らかの魔導具の力の線もあるが。
ジェーンは迷わず進んで行く。
まるで祈祷書の場所が分かっているかの様だ。
神殿の室内は静かだ、生命有る者の気配はしない。
やがて1つの小部屋に辿り着く、中には棚があり巻物や本がずらりと、並べられている。
「魔術師殿、魔力探知をお願いします。」
ジェーンが指示をしてくる。
「最後の魔力になりますが、よろしいですか?」
もし、ジャック・オー・ランタン以外のアンデッドが出たらどうするのだろう。
中級以上のアンデッドは[通常武器無効]が多い。
「もちろんです。まだ私の聖力は残っています。帰り位なら大丈夫です。」
今更遅いが、この女は信用に欠ける。
自分一人なら大丈夫の意味かも知れない。
「祈祷書さえ手に入れば後の物は貴方がたの自由。魔法のかけられた本なら一獲千金もありえますよ。」
確かに稀少本なら取り扱い単位は金貨だ。
嫌な感じを覚えながらも詠唱に入る。
[魔力探知](使1残0)
本棚の中で光ったのは2冊。
後、棚の片隅の小石。
その本を手に取り確認する。
[不死者の祈祷書]
[ゾンビ作成マニュアル]
どちらも通常の神々の教団では禁書に値する本だ。
「探していたのは、この祈祷書です。そちらの本も希少本ですが、それこそ魔術師殿向けですね。」
ジェーンが暗闇で薄っすらと笑みを浮かべる。
「それは確か[永遠の神]と契約し、ノーブルヴァンパイアになる方法が記載されている禁書では?」
至高神教団では賞金もかかっているはず。
「そうですよ。私は前に申し上げた様に[学問の神]の徒として、あらゆる知識を得たいと思っておりますので。」
一呼吸置いてからジェーンが言う。
「人の寿命では余りにも短すぎます。」
「三人とも、お姉さまの書斎で何をしているのですか?」
後から声がかかる。
いつの間にか扉の所に小柄な人影が立っていた。
3人?室内には4人いるはずだ。
「お姉さまが灰になったのを嗅ぎつけてもう冒険者が来るなんて。やはり人間は駆除すべき害獣ですわね。」
紅い瞳を光らせてその赤毛のハーフエルフが言う。
「まぁ、良いですわ。ノーマルヴァンパイアに昇進した記念に三人とも殺して差し上げます。」
やはり3人と言った。
ノーマルヴァンパイアには、誰か見えていない。
いや誰かではない、ジェーンが見えていないのだ。
ジェーンは無言のまま悠々と歩み去り、書斎には赤毛のヴァンパイアと[エール樽]が残された。
この世界ではノーマルヴァンパイアが倒されると、そのヴァンパイアが作成したレッサーヴァンパイアの一番古いが個体が昇進します。
ヴァンパイアは中々滅ぼしにくいのです。
例)
ノーマルヴァンパイアAがa.b.cを作って滅び、aが跡を継ぎ、い、ろ、は、を作った。
aが滅ぶとbがAの跡を継ぐと同時に、い、がaの跡を継ぐ。
滅ぼすの、なかなか大変でしょう?
私の黒歴史がまた1ページ。




