死の燐光
ジェーンのランタンはシャッターの開け閉めで光量を調節出来ます。
真夜中を過ぎ、街からは四半刻程離れた森の中、ジェーンの持つランタンだけを頼りに案内されてきた盗賊の隠れ家は[永遠の神]の廃神殿だった。
ランタンのシャッターを絞りながらジェーンは言う
「[至高神]教団による討伐以来、さびれるままだった神殿を盗賊は隠れ家にしています。」
「アンデッドへの恐れを利用した合理的な隠れ家と言えるでしょう。」
確かに合理的ではあるが、本当にアンデッドが出ても文句は言えない。
「我輩はこういうアンデッドが出そうな所は苦手なんだ」
サムスは見かけによらず臆病で、正直、冒険者としてはどうなのだろうと思う。
「おい、灯りが見えるぞ!」
アロンが小声で言う。
確かに小さな神殿の前庭でランタンの様な灯りが揺れている。
「隠れ家で、見つけた物は自由にして良かったんですよね?」
マールがジェーンに確認をとる。
「はい。祈祷書以外は御随意に。」
ジェーンが返答を返す。
盗賊を倒せても、盗品が回収出来ない主な要因はこれにある。
「ガジ、バツル、先行するわよ。」
[おのぼり]達が連携を見せ神殿敷地内に入ってゆく。
我々[エール樽]より困窮が酷いのかも知れない。
「アロン、サムス、我々も前進しよう。」
こちらも声をかけて前進する。
ジェーンが更に後からついてくる。
「[慌てる乞食は上がりが少ない]ってな。」
アロンは態度は悪いが度胸はある。
ジェーンと雇われ冒険者、総勢7名は廃神殿に足を踏み入れた。
ゆらゆらと揺れる灯りは生ある者の灯火ではなかった。
不死者の神殿の前庭にいたのは、ジャック・オー・ランタン。
斬首された人間の魂が[永遠の神]に魅入られたと言われる、燐光を発し浮遊するアンデッド。
カブともカボチャとも言われる発光した塊が空中に浮いている。
[死の燐光](使2残8)
先行していたマールの体がビクリと震え倒れた。
一瞬で心の臓が止められたらしく、ピクリとも動かない。
「マール、しっかりしろ!マール!」
バツルがマールを抱きかかえて揺さぶるが反応はない。
ガジは抜いた剣をメチャクチャに振り回し、ジャック・オー・ランタンに切りかかっている。
「ジェーンさん、[蘇生]か[退魔]を。」
「ガジは下がれ!アロン、サムスは付与後、斬り込んで!」
指示を出し詠唱に入る。
[魔力付与]×2(使2残4)
[死の燐光]×2(使4残4)
バツルがマールの亡骸を抱えて、仰向けに倒れ、ガジも剣を手放し胸を押さえ倒れた。
「……。……、……、……、……。」
ジェーンが小声で祈りを捧げる。
(学問の神よ。不死者より、我が姿、夜明けまで、隠し給え。)(使4残3)
「駄目です。ブレナ殿、[退魔]を試みましたが、通じません。」
どうやら、祈りは不発だった様だ。
それに祈りが長い、僅かでも短く祈る冒険者とはやはり違う。
アロンとサムスが連携をしながら攻撃を仕掛けるが、飛び回るジャック・オー・ランタンに当たらない。
今のところ魔術を使わせる隙を与えてないが、このまま我慢比べになれば疲れないアンデッドに分がある。
[光の矢](使1残3)
2人の援護に魔術の矢を放つ。
命中したが、倒すには至らない。
やはりアンデッドには直接攻撃魔法は効きづらい。
そうしているうちに、持久力に劣るアロンの攻撃が鈍る。
[死の燐光]×2(使4残0)
[魔術抵抗]×2(使2残1)
危ない所だった。
魔術への抵抗を上げても完全に魔術は防げないが、今回は2人とも耐えた。
「ジャック・オー・ランタンの魔力は切れました。倒しきらなくとも逃げ出すはずです。」
ジェーンが冷静に言う。
そうか、ジェーンはジャック・オー・ランタンが居ると知っていたのだろう。
魔力を削る為に使い捨てられる冒険者を集めたなら辻褄が合う。
「お疑いですね。想定外ですよ。私にも。」
疑いが顔に出ていたとも思えないし、そうだとしてもこの暗闇で見えるとは思わない。
アロンの言うとおり一枚上手なのだろう。
「我輩から逃げるか、カボチャ化物!」
ジャック・オー・ランタンが逃亡した様だ。
「深追いは必要ありません。月光を浴びて魔力を回復するにも、今夜は三日月。時間がかかります。」
そう、眠らない不死者は月光を浴びて魔力を回復する。
自分の魔力は切れかけ、アロンは肩で息をしている。
サムスは逆に高揚した様子。
そしてマール、ガジ、バツル、は死んだ。
「さぁ、行きますよ。時間が惜しいですから。」
ジェーンは死んだ3人への祈祷する素振りも見せず、そう冷酷に告げてランタンのシャッターを開いた。
近年流行りのハッピーハロウィン。
かつて各地域にあった騒げるハレの日から遠ざかった都会で、お祭り騒ぎするには輸入した風習に頼るしかないのでしょうね。
私の黒歴史がまた1ページ。




