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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第9章 再始動

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死の燐光

ジェーンのランタンはシャッターの開け閉めで光量を調節出来ます。


真夜中を過ぎ、街からは四半刻程離れた森の中、ジェーンの持つランタンだけを頼りに案内されてきた盗賊の隠れ家は[永遠の神]の廃神殿だった。


ランタンのシャッターを絞りながらジェーンは言う

「[至高神]教団による討伐以来、さびれるままだった神殿を盗賊は隠れ家にしています。」

「アンデッドへの恐れを利用した合理的な隠れ家と言えるでしょう。」


確かに合理的ではあるが、本当にアンデッドが出ても文句は言えない。


「我輩はこういうアンデッドが出そうな所は苦手なんだ」

サムスは見かけによらず臆病で、正直、冒険者としてはどうなのだろうと思う。


「おい、灯りが見えるぞ!」

アロンが小声で言う。

確かに小さな神殿の前庭でランタンの様な灯りが揺れている。


「隠れ家で、見つけた物は自由にして良かったんですよね?」

マールがジェーンに確認をとる。


「はい。祈祷書以外は御随意に。」

ジェーンが返答を返す。

盗賊を倒せても、盗品が回収出来ない主な要因はこれにある。


「ガジ、バツル、先行するわよ。」

[おのぼり]達が連携を見せ神殿敷地内に入ってゆく。

我々[エール樽]より困窮が酷いのかも知れない。


「アロン、サムス、我々も前進しよう。」

こちらも声をかけて前進する。

ジェーンが更に後からついてくる。


「[慌てる乞食は上がりが少ない]ってな。」

アロンは態度は悪いが度胸はある。


ジェーンと雇われ冒険者、総勢7名は廃神殿に足を踏み入れた。




ゆらゆらと揺れる灯りは生ある者の灯火(ともしび)ではなかった。

不死者の神殿の前庭にいたのは、ジャック・オー・ランタン。

斬首された人間の魂が[永遠の神]に魅入られたと言われる、燐光を発し浮遊するアンデッド。


カブともカボチャとも言われる発光した塊が空中に浮いている。


[死の燐光](使2残8)


先行していたマールの体がビクリと震え倒れた。

一瞬で心の臓が止められたらしく、ピクリとも動かない。

「マール、しっかりしろ!マール!」

バツルがマールを抱きかかえて揺さぶるが反応はない。


ガジは抜いた剣をメチャクチャに振り回し、ジャック・オー・ランタンに切りかかっている。


「ジェーンさん、[蘇生]か[退魔]を。」

「ガジは下がれ!アロン、サムスは付与後、斬り込んで!」

指示を出し詠唱に入る。

[魔力付与]×2(使2残4)


[死の燐光]×2(使4残4)


バツルがマールの亡骸を抱えて、仰向けに倒れ、ガジも剣を手放し胸を押さえ倒れた。


「……。……、……、……、……。」

ジェーンが小声で祈りを捧げる。

(学問の神よ。不死者より、我が姿、夜明けまで、隠し給え。)(使4残3)


「駄目です。ブレナ殿、[退魔]を試みましたが、通じません。」

どうやら、祈りは不発だった様だ。

それに祈りが長い、僅かでも短く祈る冒険者とはやはり違う。


アロンとサムスが連携をしながら攻撃を仕掛けるが、飛び回るジャック・オー・ランタンに当たらない。

今のところ魔術を使わせる隙を与えてないが、このまま我慢比べになれば疲れないアンデッドに分がある。


[光の矢](使1残3)

2人の援護に魔術の矢を放つ。


命中したが、倒すには至らない。

やはりアンデッドには直接攻撃魔法は効きづらい。

そうしているうちに、持久力に劣るアロンの攻撃が鈍る。


[死の燐光]×2(使4残0)

[魔術抵抗]×2(使2残1)


危ない所だった。

魔術への抵抗を上げても完全に魔術は防げないが、今回は2人とも耐えた。


「ジャック・オー・ランタンの魔力は切れました。倒しきらなくとも逃げ出すはずです。」

ジェーンが冷静に言う。


そうか、ジェーンはジャック・オー・ランタンが居ると知っていたのだろう。

魔力を削る為に使い捨てられる冒険者を集めたなら辻褄が合う。


「お疑いですね。想定外ですよ。私にも。」

疑いが顔に出ていたとも思えないし、そうだとしてもこの暗闇で見えるとは思わない。

アロンの言うとおり一枚上手なのだろう。


「我輩から逃げるか、カボチャ化物!」

ジャック・オー・ランタンが逃亡した様だ。


「深追いは必要ありません。月光を浴びて魔力を回復するにも、今夜は三日月。時間がかかります。」

そう、眠らない不死者は月光を浴びて魔力を回復する。


自分の魔力は切れかけ、アロンは肩で息をしている。

サムスは逆に高揚した様子。

そしてマール、ガジ、バツル、は死んだ。


「さぁ、行きますよ。時間が惜しいですから。」

ジェーンは死んだ3人への祈祷する素振りも見せず、そう冷酷に告げてランタンのシャッターを開いた。

近年流行りのハッピーハロウィン。

かつて各地域にあった騒げるハレの日から遠ざかった都会で、お祭り騒ぎするには輸入した風習に頼るしかないのでしょうね。


私の黒歴史がまた1ページ。


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