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魔導書(電子書籍版)と契約し旅にでる  作者: 弓納持水面
第8章 哀れな生き物

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竜の卵

ミケはロバートが居なければ、戻ってきたはずです。

「絶対、絶対だよ。菖蒲、冷夏。」

魔王(レイナ)が去り際に、私と冷夏を自領に連れて帰ると駄々をこね、セバスさんとデポさんが説得した。


冷夏が魔都を訪れた際には必ず寄ると約束し、先程ようやく魔王(レイナ)を乗せた馬車は帰国の途に就いた。


「アヤメは一二三流で剣術の師範になりたかったんじゃない?」

冷夏が、いたずらっぽく笑いながら言う。

「冷夏こそ将棋の家元になれば、晴れてこの世界の初代名人でしたよ。」

私も冗談で返す。


「レイナ様に近い年代の友人は必要ですけど~色々難しいんですよ~」

デポさんが珍しく困った顔して話した。


「後、これは報酬です~セバスさんが色つけてくれました~。」

私と冷夏に金貨25枚づつくれた。

私は口座管理料銀貨1枚を支払い[冒険者の店ギルド]に預ける様にする。


「そういえば〜後3日ぐらいでロバートさん戻ります〜」

ここ暫く忙しいのもあったが、敢えて問題から目を背けていた。

先送りしてきた問題に取り組まなくてはならない。


3日後

ロバートさんが[魅惑の伯爵夫人]に戻ってきた。

前より小綺麗な姿をしている。

やはり予想通りなのだろうか?


夕食後、密談スペースを借りて[五芒星]の話合いが持たれた。

パーティー資金の返却の件があるので、デポさんも同席している。


開口一番、ロバートさんが[五芒星]の解散を申し出た。

「兄のジェフリーが病で急死してな。」

「色々あったが、俺がノウル家を継ぐ事が決まった。」

「だから俺は[五芒星]から抜ける。」


そして、ジグさんもミケさんも居なくなった今、[五芒星]を存続させる意味はないという。

「騎士ロバート・ノウル。似合わねえかもしれないがな。」

苦笑混じりの説明だった。


「一つ訊いても良いですか?ロバートさん」

私は予想を確かめる為に質問した。

「ジェフリーさんは衰弱死したのではないですか?」

ロバートさんの表情が少し変わる。


そう、私は「サキュバスを仕掛けてジェフリーさんを殺しましたか?」

と、ロバートさんに訊いたのだ。


「ああ、嬢ちゃん。刀振り回すだけじゃなく勘も良いんだな……。」

ロバートさんは事実上肯定した。

「何故、そう思った?」


「デポさんは人間世界との国境に秘密を共有した親しい人物が付く利点があり、ロバートさんは不安定な冒険者から一国一城の主になれる。」


「[マンティコア殺し]の名声と他の兄弟が街に不在、チャンスを見逃す方ではないと考えてました。」


「[サキュバスの壺]を借りたんだよ。この宿に住み着いている奴とは別個体。持ち運べる優れものだ。」

ロバートさんは改めて苦笑する。

いや、目は笑っていない。


「自分はロバートさんに説明して欲しい事ある。」

デグさんが珍しく自ら話した。

「ミケは何故、兄を殺したのか。」


「やはりそうか。」

ロバートさんは事もなげに言葉を返す。

「こっちは簡単だ。ミケが生き延びるのに邪魔になったからだろうさ。」


「これは俺の見立てだが、ミケは他者への感情が薄い。」

「それが合理性に繋がり、冒険者として生き延びる事に繋がっていると考えていた。」


「でも、ミケさんは色々気遣ってくれたし、ジグさんともラブラブに見えたよ。」

冷夏が泣きそうな顔で反論する。


「それは演技だ。そう振る舞うのが最適と合理的に判断した結果だ。」

「だから稀に、演技ではない見透かす様な目を見せることがあった。」


「それを何故兄者に伝えなかった!」

デグさんがテーブルを叩き立ち上がる。


「そうイキるなよデグ。お前の兄貴はバカじゃない。」

「肌を合わせる間に違和感を覚えるぐらいはしたはずさ。」

ロバートさんは落ち着いて座ったままだ。


「それに言って信じたか?ミケの態度は計算された演技で、俺は冒険者として生き延びる為に仲間にしていると言ったら」

デグさんは、うなだれて席につき、冷夏は泣き始めた。


「冷静なのは竜人の嬢ちゃんだけか……どうするよ?」

ロバートさんが私に話を振ってくる。

経験積んだ冒険者とはこういう者か……

いつの間にか場を支配しているのはこの男だ。


「[五芒星]は解散ですね。パーティー資金の残金は?」


「金貨8枚と銀貨66枚です~」

空気になっていたデポさんが答える。


「俺の取り分は放棄する。」

ロバートさんが、すかさず言う。

「嬢ちゃん。かわりに一つ頼まれてくれないか?」


「暗殺の件なら誰にも言いませんよ。」

私が答えると、ロバートさんは今度は本当に苦笑して言う。


「それは有り難いが、頼みたいのはそれじゃない」

「デグのことさ。」

ロバートさんは席を立ちながら言う。


「アヤメ、お前が新しいパーティーリーダーとして導いてやってくれ」

え?

私はデグさんをロバートさんに雇ってもらうのが最良と考えていた。


「ほっとけばデグはミケを追って行き……死ぬ。泣いてる嬢ちゃんの護衛あたりを上手く務めさせてやってくれ」

ロバートさんはそれだけ言うと出ていった。

まだ領内が落ち着かないのだろう。

数頭の馬をつれ、夜駆けするつもりらしい。


「登録するから〜新しいパーティー名を決めて〜」

「資金は新パーティーに移行なら初回手数料はオマケします~」


泣いている冷夏、項垂れたまま動かないデグ、出来損ない竜人の私……みんな未熟の新パーティー……。


「パーティー名は[竜の卵]で」

私はデポさんにそう告げた。

アスリートを見ればわかりやすいですが、冒険者のピークは短く、経験豊富になった頃には身体的に衰えが見え始めます。

アスリートと違うのは衰えが死に繋がる事。

ロバートはマンティコア戦の負傷で自らのピークが過ぎた事を悟ったのです。

人間より長寿の種族の冒険者は経験と能力が整ったピークが長い為、冒険者として手強いです。


この章はこれで終わりです。

よろしければ、評価、感想をお願いいたします。


私の黒歴史がまた1ページ。

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