覗き見
郊外にある妖魔神殿は広く、籠城戦が出来るぐらいです。
朝
今日はアヤメと共に、レイナを護衛して過ごす。
午後からレイナが妖魔族族長代行と会うらしいんだけど、ちょっと不安に思っている。
セバスさんは昨日夜から妖魔神殿に詰めるって言って居ない。
アヤメと私でレイナを守らないといけないんだよ。
女性の護衛なら増やしても良いと言われていたので、ミケさんにも相談したかったが帰って来なかった。
(もちろんジグさんも帰ってないよ……ラブラブなんだろうな。)
『実質アヤメ一人で二人の面倒見るのか……アヤメも災難だ。』
ん?マドウ、なんか悪口言ってるね。
「冷夏、菖蒲、お願いがある。」
魔王からお願いされるなんて、勇者にでもなった気分だけど、なんだろう?
丘の向こうが見たいとか言い出すのかな?
「族長代行がどんな人か見たい。」
丘の向こうではなかったが、う~ん、大丈夫かな。
セバスさん居たら絶対反対する気がする。
「適当な場所がないか、兄の手の者に確認してみます。」
アヤメが冷静に対応している。
でも、兄の手の者って……。
アヤメの里って竜人衆とか竜人の庄とか言いそうだよ。
一刻後
「ここからなら、族長代行の一行が見れます。」
妖魔の村からハルピアへの街道が見える小屋の中に3人でいた。
なんかドラマで、こんなシーン見た記憶がある。
「二人とも、来ましたよ」
アヤメが告げるので外を見ると、隊列を組んだホブゴブリン達が歩いている。
「(ホブゴブリンが、いっぱい来てるよ、マドウ。)」
『(ホブゴブリンが分かるとは教育の成果が出てきたな)』
うるさいよマドウ。
「ホブゴブリンだけで50は居ますね。装備も整っている。」
「まだ隊列は続いてますし、総勢は200 位だと思いますよ。」
ひと目見てアヤメが言う。
「そんな事わかるの?」
私も疑問に思った事をレイナが訊ねる。
「子供の頃、物見の訓練とか、させられませんでした?」
「ああ、レイナはしませんよね。」
いや、私もしてない。
う~ん、大抵しないと思うぞ、アヤメ。
「次がきたよ。ドワーフだけど……」
レイナが口ごもる。
「すごい、種子島の数……」
火縄銃を揃えてドワーフが行進してきた。
私はアヤメと顔を見合わせる。
ドラマだと、このあと来るのは、うつけ者だが、今回来るのは、ダークエルフだろう。
「やはり、ヒューヒュですね。」
ルビーのピアスをしたスタイルの良いダークエルフが馬に乗っているのを見てアヤメが呟いた。
午後
「やっぱり、レイカ達だったかぁ。」
妖魔神殿に到着したヒューヒュに呼ばれ、開口一番に言われた。
「種子島を持った狙撃手が待ち伏せてるって報告受けて、レイカが思い浮かんだから。」
う~ん、覗き見バレてたし、結構危なかったんじゃ……。
「危うく種子島衆に一斉射撃させるとこだったよ。」
ヒューヒュは笑っているが、アヤメは怖い顔している。
「魔王って、どんな娘?」
ダークエルフ族の正装に着換えながらヒューヒュは私達に訊ねてくる。
「悪い娘じゃないよ。好奇心旺盛な、凄い美少女。」
「まだ幼く、魔王としての基盤は脆弱、ハーフエルフを不合理な死から救うぐらいの見識はあります。」
私とアヤメはそれぞれ答える。
「そっか。」
ヒューヒュは一瞬、思案顔をした。
「殺しても、生かしても、魔族は暫らく纏まらないと思います。」
アヤメがいい添える。
うん?用心棒アヤメは、なんか物騒だぞ?
「アヤメは怖いねぇ、そう思わないレイカ?」
ヒューヒュはいたずらっぽい笑みを浮かべて、話を振ってきた。
「お昼抜きで、お腹空いてるからだよ」
私が冗談っぽい口調で答えると、
「[空腹の竜、手負いの虎]って言いますからね。」
とアヤメも、とぼけて3人で笑った。
会見、何とか上手くいきそうだよ。
ホブゴブリンはゴブリンの亜種で、この世界ではゴブリンの上位互換です。
ただ、その分繁殖力ではゴブリンに劣ります。
私の黒歴史がまた1ページ。




