竜と魔王と用心棒
冷夏がやっているのは、全くの初心者に将棋を教える古い方法です。
今はもっと、わかりやすい本などが多数出ていますよ。
推薦依頼の[さる高貴な令嬢の用心棒]が、冷夏と一緒に[外遊中の魔王を護衛する仕事]に進化した。
竜は魔王に将棋の駒の動かし方を教えている。
デポさんとセバスさん(魔王には爺と呼ばれている)はお茶をしながら密談中。
ペティさんはランチの準備で忙しい。
「陛下の慈悲に這いつくばって感謝するのですよ〜」
卒倒から起きたペティさんに秘密を知ったペナルティがない事を伝え、上記の様にデポさんが言うと、本当にペティさんは這いつくばって感謝した。
「う~ん、見てらんないよ」
冷夏の呟きに私も同じ意見だ。
だが、実際くだらない理由で殺されるなど、目を背けているだけでそこら中に転がっている。
ペティ君もまた、生き延びる為に必死なのだろう。
昼過ぎ
慌ただしいランチタイムが終わり、店の隅でセバスさんとデポさんと私でテーブルを囲んでいる。
デグさんは走り込みに出掛けた。
「レイナは全駒初期配置、私は玉と持ち歩三枚で始めるよ。上手の私からだよ……」
聖女と魔王は合戦に及ぶところだ。
もしかすると将来、あの二人は駒でなく実際の大軍を、ぶつけ合うかも知れない。
何故かそう思う。
「菖蒲殿、レイナ様が、お忍びでこの街いらしたのは、それぞれ別に、ハーピー商会の会長と妖魔族族長代行と会見をする為です。」
セバスさんが魔族の最高機密を明かしてくれた。
これで下手をすると、私は煮込まれる。
「本来、もう少し随員が必要ですが、そうするとレイナ様の不在が反対派に漏れてしまいます。」
どうやら魔族諸侯はレイナの戴冠に異を唱える者が多く、魔王が国外にあるとなればこれ幸いと国外追放を試みるだろうとの事。
「しかし、レイナ様とセバスさんのみでは、こちらの根回しが無理なのでは?」
外交交渉は根回しが重要。
長兄が昔からそんな事を度々洩らしていたので訊いてみる。
「こちらの会見の根回しは竜胆殿にご助力願いました。」
その長兄の名前が出てきた。
さる高貴な方の剣術師範になり、弟子達と島を出る。
そう聞いていたが、やはり裏仕事込みの仕官だった様だ。
「では、私の推薦者は兄ですか?」
今度は隣でお茶を啜るデポさんに訊いてみる。
「お兄さん、お姉さん、双方からですよ〜。ちなみに、お姉さんは妖魔族側ですからね〜」
竜人族でも私の里は秘密が多い。
私はその柵を嫌って島を出た……はずだったんだけど……。
「妖魔族族長代行との会見は明日午後、郊外の[妖魔神殿]です。レイナ様は幼く、冷夏殿は武勇に優れるとは思えない。いざとなれば菖蒲殿、貴殿が頼りです。」
セバスさんに懇願された。
「もう一度!もう一度だよ、冷夏!」
竜と魔王は盤をはさみ楽しそうに過ごしている。
あれ?どうしてこうなったんだろう?
読み返して、アヤメ姉の名前が出ていない事に気づきました。
兄は今回出てるのに。
私の黒歴史がまた1ページ。




