さて、どうしよう
アヤメの護衛依頼で[五芒星]は、そこそこ報酬を大地母神殿から得たばかりです。
もちろんアヤメには秘密になっています。
冷夏と[魅惑の伯爵夫人]の食堂で将棋を指していると、貴族風で身なりの良い10〜12歳くらいの少女が付き人らしい初老の男性と入ってきた。
ちなみに冷夏は将棋がかなり強い。
冷夏曰く、完璧超人の姉よりも優る唯一の事だったらしい。
来店した二人の姿を見て、
「あら〜、いらっしゃい〜、はじめまして~、デポと呼んでくださいね~」
デポさんがいつもの挨拶をする。
「シャンヴィル・デポトワール殿ですな、こちらはレイナ・ジェンカ様。」
「しばらく世話になります。」
付き人の初老男性が挨拶を返す。
青紫の瞳に黒髪の貴族らしい少女は黙っている。
下賤の者とは話したくないという貴族独特の感覚なのか、単に人見知りなのかはわからない。
「護衛の方や他のお付きの方は後からですか〜?」
デポさんが尋ねる。
少女は高位貴族に見えるから、見た目どうりなら、もっと大人数になるはず。
「いや、お忍び故、レイナ様と儂だけで動いております。」
「必要なら、護衛の冒険者を雇うつもりでおります。」
お忍びだとしても、人数が少な過ぎる。
そこそこの人数の冒険者を雇う必要があるだろう。
「あらあら〜大変ですね〜。ご依頼ならぜひ〜。」
デポさんが野菜のごった煮を出しながら宣伝を始めた。
なんだろう?
デポさんが緊張している感じがする。
夕方
珍しく兄弟で出かけていたジグさん、デグさんが帰ってきた。
その後、直ぐにミケさんも戻る。
ミケさんがビックリした顔を一瞬だけ見せて席に付く。
階段から昼間の少女と付き人が降りてきていた。
「ロバートさんが冒険者稼業は、30日ぐらい休みにする。しばらく留守にするって言って出かけたよ。」
夕食を取りながら、レイカが皆に伝言を伝える。
私以外のメンバーは懐が何故か十分に暖かい様だ。
「その間、個人で仕事受けるのは自由だって。」
さて、どうしよう。
夕食の時間が終わり、灯りが減らされた食堂で一人考える。
下級神官になる前ほど困窮はしてないが、30日何もせず休める程豊かではない。
ミケさんとジグさんは甘く、二人で過ごすみたいだし、レイカとデグさんは神殿で修行の日々だろう。
私も修行の日々としたいが、この宿の宿泊代と食事代を稼がねばならない。
[家族や友情は金の貸し借りをする時点で終わる]
借りるのは論外だ。
歩き巫女なら神殿に挨拶すれば、宿には困らない。
だが私はまだ下級神官で神殿に泊まるには(格安とはいえ)料金がかかる。
姉夫婦の所は竜絡みで訪ねづらくなったし、そもそも義兄と30日も世話になる程、親しくはない。
「アヤメちゃん〜短期で用心棒しない〜。推薦依頼あるんだけど〜。」
デポさんが給仕をウッドゴーレムに任せ、いつの間にか隣に座っている。
なんだろう、[竜の背のトカゲ]になった気分だ。
[竜の背のトカゲ]
竜人族のことわざです。
私の黒歴史がまた1ページ。




