学んだ事
駅で会いたくない人を見かけた気分わかります?
「ミケ、ミケじゃないか?」
街を歩いていると、エルフ語で声をかけられた。
この声には覚えがある。
まだ私がエルフの里に居たときの幼なじみだ。
気が付かないふりをして無視しよう。
最初そう思ったが、ふと違和感に気づいた。
エルフが里を出てきて、こんな所で何をしているのだろう。
「やはりそうだ。ミケ、クプファーだよ。覚えてないかい?」
整った顔立ちのエルフがそこに居た。
弓の達人でエルフ語魔法も使う標準的なエルフ、上から目線のクソ野郎。
「え、本当にクプファー?」
驚いた顔を見せる、そして笑顔に変える。
裏が分かるまでは、とりあえず慎重にゆこう。
「久しぶりだねミケ。」
クソ野郎は親しげに話かけてくる。
「チャバネとラットはどうしている?」
私と共に里から追放されたハーフエルフの名だ。
「さあ?森から出て直ぐに、別れたから。」
嘘は言ってない。
森を出てすぐ、灰色髪の鼠はハーフエルフ狙いの奴隷狩りと戦い死に、茶髪の虫は捕まって行方不明。
私は彼女らを囮として逃げおおせた。
養父と再会するまでは、生き延びるだけで精一杯だった。
「そうか、里から旅立つまで、姉妹の様に仲が良かったからてっきり……。」
クソ野郎の言葉に私は微笑んだ。
ここは微笑んでおかないと……。
私達ハーフエルフは旅立ったのではない!
追放されたのだ。
「クプファーはなんでこんな所に?一人で来たの?」
驚きと好奇心を感じさせる口調で探りを入れる。
「長老会の命令でね。友人の精霊は連れているよ。」
話せない目的、単独行、護衛に何らかの精霊、可能性を計算する。
支配下の精霊を友人と称するのはエルフらしい偽善だ。
「ミケは?」
クソ野郎は、いまだに私を友人と考えているだろう。
「冒険者をしているわ。仲間に恵まれたから、何とか食べてるって感じね。」
「父は、先生は相変わらず?」
カマをかける。
養父が[剥奪の刑]を受けたのは私の追放後。
再開したことは里には知られていないはずだ。
「ああ、もちろんだよ。ハイエルフは永遠だからね。」
「ただ、また研究で森を出られている。何処にいらっしゃるか知らないか?」
クソ野郎は表情を変えない。
もしかしたら、再会は偶然ではない?
仕組まれた罠か?
こいつはクソ野郎だが無能ではない。
その後は取り留めのない話をして、互いの宿を教えあって別れた。
あのときの[哀れな生き物]ではないところを、クソ野郎に見せてやることにしよう。
生き延びる為には、あらゆる手段で戦わなくてはいけない。
エルフ共が私に教えてくれたのは弓でも魔法でもない。
残酷な事実だけだ。
私の黒歴史がまた1ページ。




