無能 ほめられる
メッキがはがれるとはこのこと
俺の説明を聞いたギルドの男の表情は青ざめていた。
「信じられねぇが……これを見たら嘘だとは言えねぇよなぁ……」
聞けばこの男、どうやら今回の討伐隊に参加していたリーダーの男が所属しているパーティーの一員だったようで、それなりの実力者だったようだ。
そのため、今回の目標であったウッドモンキーの変異種討伐も内心何とかなるだろうとは思っていた。しかし実際は続けざまにオークに襲われ、結果的に敗走する事になってしまったのだ。
「そこの姉ちゃん、見覚えがあると思ったら……。俺たちが逃げるために敵を引き付けてくれた……」
「あの時は助かりました。あなたたちが撤退の意思を見せてくれたおかげで騎士団も引き上げさせる事ができましたので」
「いや、感謝するのは俺たちの方だ。あんたがいなかったらもっと被害者が出てたかもしれねぇ。本当にありがとな!」
男が改まって感謝の言葉を口にする。
(なるほど。そういう事か)
確かにミラーナは強い。だがいかに彼女が強いとはいえたった一人でオークエンペラーと戦っていた事に対し納得がいく。彼女の事だ。他の者たちを逃がすために自分一人だけでオークたちを相手に立ち向かったのだろう。
「それに比べて……栄光の翼のウィズと騎士団を指揮していたあの姉ちゃんにはガッカリだぜ」
「ウィズが!? 参加していたのか!」
「ああ、最初は心強いなと思ったがとんだ間違いだった。魔法はしょぼいわ、時間をかけても大した威力は出ねぇわ散々だったぜ」
男が言うに今回特に酷かったのはウィズと騎士団を指揮していた女性の二名だったようで、この二人はかなり好き勝手やっていたらしい。自分の実力を顧みずただただ突撃を繰り返し、活躍するどころか場をひっかきまわし逆に状況を悪化させていたようだ。
「ちなみにあのウィズという男は転移石を使って真っ先に脱出したわ。私とローナルという女性を置いてね……」
「そのローナルという女性がさっきオークジェネラルに追われていた彼女。君が言う今回の指揮者だね」
「おいおいマジかよ」
しかもウィズとローナルという女性は功績を上げたいがために撤退命令を無視しその場に残留したのだという。その上ウィズは転移石を使い真っ先に逃げ出したという話を聞き、これにはさすがの俺も呆れて物も言えなかった。
栄光の翼はAランク。当然それ相応の稼ぎがあったというのは俺自身が何より分かっている。それでも転移石は高級品、いくら栄光の翼と言えどバンバン使える代物ではない。それに加え味方を見捨て敵前逃亡、これが明るみに出れば栄光の翼のウィズと言えど悪評は広まる事になるだろう。
「それに引き替え……兄ちゃんたちはすげーな。まさかこんな化け物まで倒しちまうとはな」
「本当にギリギリだったけど。皆がいてくれたからな」
オークエンペラーを倒したのは俺だが俺一人だけの力では討伐できなかっただろう。ミラーナがいたからこそこうしてオークエンペラーと戦う事ができたし、レイシアがいたからこそこの場に無事にたどり着く事ができなかった。
二人がいなければもっと被害が拡大。それどころかオークエンペラーを倒すという事さえ出来なかったかもしれない。
本当に運が良かった。この一言に尽きる。
「さてとそれじゃ用事も済んだしそろそろ帰ろっか? 道中に他のオークたちの亡骸もあるしそれも回収しよう」
「そうね。オークエンペラーを倒したとはいえまだ森には魔物がいるわ。早く戻りましょう」
「ああ、そうだな」
話し込んでしまっていたがここは森の中。オーク以外にも魔物はうようよしている。それこそ今ここで強力な魔物が出てきたら厄介だ。
オークエンペラーの亡骸をレイシアが持っていたアイテムボックスに収納し、俺たちは帰路につく事にした。




