無能 奮闘する part1
ざまぁの相手は元パーティーだけと言ったな
あれは嘘だ
別に魔物相手でもあってもいいよね?
間に合った。それが俺の中で出た答えだった。後一歩遅ければ自分が想定していた最悪の結果になりえたかもしれない。
「ヒュー……君?」
大切な幼馴染が目に涙を浮かべ、泣き崩れながらも自分に向かって言葉をかけてくる。それも昔自分が呼ばれていた名前でだ。
「もう……大丈夫だ」
そっと彼女の元に駆け寄り頭を撫でる。
「う……ぁぁぁ!」
「って!? ミラーナ!?」
「遅い! 遅いよぉ!」
大声を出しながら胸に顔をうずめてくる。彼女の体に触れると体温の温かさを感じる。生きている証だ。
「ごめん……ごめんな」
「ひぐっ! ぐすっ」
これほどまで泣きじゃくる彼女を見るのはいつぶりだろう。小さい時はよくこうして泣いていたが、再会してからは自分に弱さを見せる事はなかった。それどころか追放され絶望していた俺を救ってくれるほど、彼女は強くなっていた。。
「ミラーナ。これ飲める?」
スッと俺は懐から二本の瓶を取り出す。片方は怪我や傷を治す薬、もう一つは魔力を回復させる薬だ。見ただけで彼女はかなり消耗している事が分かった。それでも回復薬を飲めば多少はましになるだろう。
「大丈夫。飲むくらいの力なら残って」
「グッフォォ! やってくれたなニンゲンめ!」
背後から声が聞こえたため背を向けると、先ほど素手による一撃を叩き込んだオークが体を起こそうとしていた。
「言葉をしゃべる魔物か」
人語を話したり、理解できる魔物、変異種の中にはそういった魔物がかつて過去に存在した事があるというのは噂程度に聞いた事があった。内心驚きはしたが頭はかなり"冷静"になっていた事もあってそれが表情に出る事はなかった。
「その威圧感。お前がオークエンペラーか?」
「ホウ。オレの名を知っているとはな。いかにも。オレこそがオークたちを統べる最強の存在。オークエンペラーだ」
人語を話す事もそうだが、目の前のオークは普通とは違う見た目をしている。放たれる威圧感もこれまで出会ってきた魔物の中でも段違いである。
「まさか矮小なニンゲンごときがこのオレに一撃を入れるとはな。驚いたぞ」
自分が攻撃を受けるなどとは思ってもいなかったのだろう。先ほどの一撃に対し賞賛の声をかけてくる。
「だが所詮は不意打ち。あの程度でこのオレを倒せるとでも?」
「思ってねぇよ」
思い切り踏み込み、構えの姿勢を取る。
「俺の大切な幼馴染をあんな目に合わせてくれたんだ。”あの程度の一撃”で倒れられたら借りを返せないだろ?」
自分の中では”冷静”になっていると思い込んでいた。しかし違う。自分の挙動、そして心の中でふつふつと熱い思いがこみ上げてくる。
ああ、俺は”怒っている”のか。大切な幼馴染を泣かせ、ズタボロにしてくれたこの魔物に。
「ブッフォッフォ! その余裕どこまで持つか見させて」
オークエンペラーの言葉を待たず、俺はすぐさま拳を振りかぶり殴りかかる。
「フン。たかがニンゲンの攻撃などこの俺に……!?」
この時オークエンペラーは自分の体にある異変が起こるのを感じた。
(何だこれは!?)
感じた違和感。それは体が動かないという事であった。
(いや違う! 動かないのではない。オレが”遅い”のか!?)
自分の体が上手く動かない。本来なら簡単にかわせる。それどころか余裕で反撃できる。そのはずなのに思い通りにならない。
(だが、所詮ニンゲンの攻撃。武器も無しにこのオレに傷を負わせる事など)
できない。そう思っていた。自分の皮膚は他のオークたちと比べ丈夫だ。自分にダメージを与える事など簡単ではないと。
「おおぉぉらぁ!」
「グッフォ!!」
だが襲い掛かってきたのは痛み。自身の腹部に激しい痛みが襲い掛かってきたのだ。
「覚悟しろよ! これ以上絶対にお前たちの好きにはさせない! 来い!」
下等生物、知能があるだけの小賢しいゴミ、そう思っていた存在に挑発される。エンペラーとしてのプライドがそれを許さない。オークエンペラーはその挑発を受け取り戦闘の態勢に入った。




