無能 先行する part8
ささっと更新放り込んでおきます
お楽しみいただければ幸いです
オークジェネラルに襲われていた女性騎士を助け出した俺はこの後どうするかを考えていた。
(さすがに撤退した方がいいか……)
自分も、おそらくレイシアも体力にはまだ余裕があるが、どうやら予想以上にかなりの数のオークが森に潜んでいるようだ。
(騎士団やギルドの人からオークを何匹も見たという報告があれば何か動きがあるかもしれない)
自分たち以外の者も、この森でオークを何匹も見かけているとなれば、大群がいるという情報も信じてもらえる可能性がグッと上がる。そうなれば、今度こそオークの群れを駆逐するための討伐隊が結成される事になるだろう。
「ところで、どうして彼女ほどの有名人がこんな所にいるんだい?」
気を失っている女性騎士を見ながらレイシアが疑問の声を投げかける。
「有名人?」
「彼女、ローナルと呼ばれていたけど、確か大貴族の令嬢だよね? そんな彼女がどうしてこんな危険な森にいるのかなって」
ローナルという名前。噂程度ではあるが聞いた事があった。大貴族の令嬢でありながらも、騎士団に所属しており、文武どちらも秀でた才能を持つ超エリートであると。そんな彼女が護衛もつけず、魔の森の討伐隊に加わっていた事にレイシアは疑問を覚えていた。
「う……」
「それは……」
騎士団の三人が気まずそうに顔を見合わせる。話すかどうか迷っているようだが、俺たちが命の恩人であるという引け目があったからか、これまでの経緯を話してくれた。
「なるほど。彼女が隊の指揮権を」
「まぁそうなるよね。大貴族の令嬢様となれば騎士団の人たちも無視はできないだろうし」
話を聞くと、今回の変異種討伐をするにあたって騎士団が派遣され、魔の森側の指揮者として彼女が割り当てられたのだという。確かに令嬢の彼女であれば名実ともにリーダーとして抜擢されても何らおかしくはない。
「でも指揮が無茶苦茶で……」
「さっきもオーク相手に無理にでも突っ込めって」
「だから逃げてきたの」
三人が恐る恐る口を揃えて不満を吐く。どうやら手柄を立てるために、指揮権を預かった彼女は相当無茶な命令を騎士団のメンバーたちにしていたらしい。これにはさすがについていけず、最終的に全員が彼女の命令を無視し逃亡を図ったと説明を受けた。
(だからそわそわしているのか)
命令を無視しての敵前逃亡。その行為にどこか引っかかるものがあったのだろう。落ち着かない様子を見せているのにも納得がいく。
「ふーん。でも"まだ何か"言ってない事があるんじゃないかな?」
レイシアの言葉を聞いた三人の背筋がゾクリと凍る。誰が見ても分かるくらいあからさまに顔色が変わっている。
「まだ何かって、どういう事?」
「私の勘なんだけど、どうもそれだけじゃなさそうなんだよね。何かものすごく罪悪感を感じているように見えたからさ。それもリーダーの命令無視以上の」
スッとレイシアの瞳が三人を見据える。その目を見た三人は緊張からかゴクリと喉を鳴らしている。
「ち……違うの。あれは私たちが悪いんじゃない!」
「お……おい!」
「だって彼女が逃げろって言ったんだもの! だから私たちは悪くない!」
突然、女性騎士の一人が興奮した様子で何かを叫ぶ。どうやらレイシアの言葉に何か引っかかりを覚えたようだ。
「彼女なら一人でも余裕よ! 実際、騎士団でもローナル様ですら彼女に勝てなかったじゃない!」
「で……でもよ」
「あの首席の"ミラーナ様"ならあんなの何とでもなるわよ! 私たちより強いんだからさ! むしろ足手まといが消えてせいせいしたとでも思ってるに違いないわ!」
今なんて言った? 女性騎士の言葉が頭の中で反復される。逃げろと言った? 貴族令嬢のローナルですら及ばない存在? 首席のミラーナ様?
「なるほどね」
レイシアも女性騎士の言葉を頭の中で整理し、ある結論に行きつこうとしていた。
「ちょっと言い過ぎなんじゃ。ミラーナさんは私たちのために」
「何よ! あなただって愛想のない女だって影口言ってたじゃない!」
「そ……それは……」
「おいおい、よく分かんねぇが内輪揉めなら他所でやってくれや。オークに見つかったらどうするんだ?」
言い争いを見かねたギルドの男が仲裁に入るが、俺はその様子すら目に入らないほど、深く考え事をしていた。
(ま……まさか!)
確かに騎士団が討伐隊に参加しているなら"彼女"も参加しているかもしれないとは思っていた。だがそれは意外な形で判明する事となった。
他の者たちを逃がすため、"犠牲"になっているという最悪な形で。




