幼馴染 説得する
誤字報告ありがとうございます。
初めて使ってみたのですがめちゃくちゃ便利ですね!
今後も報告頂けるとありがたいです
「信じられないってどういう事ですか!」
自分でも信じられないくらいの怒気を込めるミラーナ。かくいうその話を聞いていたヴァルトも感情的になるミラーナに対して驚きを覚えていた。
常に冷静沈着、若くして優秀な女性騎士としての印象を持っていた。実際騎士団内でも彼女は表情一つ変えることなく淡々と鍛錬をこなしていた。
そんな彼女がこうも感情を露にした事は自分が知っている中で初めてだったのだ。
「別に信じられないと言ってるわけじゃない。全部信じられないと言っているんだ」
「同じ事です! 私は何一つ嘘を言っていません!」
まさかあのミラーナがなぁ。予想のしてなかった展開に思わず頭を悩ましてしまう。彼女の態度もそうだが何より、話の内容全てがため息のつくようなものばかりだったのだ。
まずは栄光の翼がパーティーメンバーに対して不当な扱いをしている事、それもギルドぐるみでだ。
パーティーメンバーに対する不当な扱いに関する問題はこれまでヴァルト自身も仕事の中で携わった事がある。しかしこれまた今回の相手が絶賛活躍中、今最も期待されているパーティーの栄光の翼となればさすがに頭が痛い。
しかもそのパーティーとミラーナが自分をかけて勝負してるだの、栄光の翼の面々は本当は大した実力がないのにAランクになっただの、変異種について虚偽の報告をしただの、とんでもない発言ばかりが出てくる。
(極みつけにオークの群れ。それもオークエンペラーと来た)
オークエンペラー。ギルド評価Sランク相当とも噂される魔物。騎士団隊長のヴァルトですらそれほどの強さを持つ魔物とこれまでに遭遇した事はなかった。
一言でいうならありえない。そう言いたい。ミラーナのいう事全て信じられないといった要因もそこにある。もしオークが群れを組んで行動、しかもその背後にオークエンペラーがいるとなれば最早町一つの問題では済まなくなる。下手をすれば国が動かなければならないほどの大問題だ。
「とにかく、今すぐにでも動くべきです。住民の避難。それに加えてオークエンペラーの討伐部隊の結成。それをするしかありません」
信じたくは無い所だが彼女の目は本気だ。嘘を言っているようには見えない。上司としては一部下の意見を尊重したい。そういう思いもある。だが
「悪いなミラーナ。その話を俺としても信じ切る事はできない。それにお前の話がもし本当だったとしても騎士団は動けない。今回俺たちがここに来たのはウッドモンキー、そしてワイバーンの変異種討伐のためだからな」
「どうしてですか!? それは虚偽の情報なんですよ! それなのにどうして」
「俺たちが騎士団だからだ」
そう騎士団は国のお抱えの組織、国あってこその騎士団なのだ。そのため、基本指示がない限り自分たちから勝手に動く事はできない。今回この町に来たのもギルドから変異種討伐に力を貸してもらえないかという依頼が上経由で流れてきたからなのだ。
最も指示が無ければ全く動けないというわけでもなく、何かトラブルがあった時に介入するという事くらいはできる。例えば衛兵から逃げ回ったり、無断で屋敷に侵入している黒髪の男を捕縛するといった行為くらいは可能なのだ。
「分かってくれミラーナ。組織とは、騎士団とはそういう組織なんだ」
堅苦しい事が苦手なヴァルトですら組織のルールは守っていた。それが結果的に安全、安心、平穏に繋がるからだ。
「お前と栄光の翼が勝手にやった契約とやらはこっちで何とかしておく。お前は一度本部に戻って指示があるまで待機だ。いいな?」
これはある意味警告だとミラーナは悟る。今回のこれまでの自分の行い、それを全てチャラにする。その代わり後の事は手を出さず静かに見ていろ。こう言っているのだろう。
「……お断りします」
「何?」
「断ると言いました。危険が迫っている中、私だけ本部に戻るなんてできません」
「ミラーナ!」
「ヴァルト隊長! 私は多くの人を守るために騎士団に入りました。そしてこの町には脅威が迫っている。それが分かっているのに一人だけ何もしないなんてできません!」
このままだと町に大きな被害が出てしまう。それをミラーナは黙って見過ごす事ができなかったのだ。
「今回の件が終わったら私はどうなっても構いません。ですからせめて、魔の森に向かう討伐隊への参加。これだけは認めて頂けないでしょうか?」
これだけは譲れない。そんな思いを胸に抱きながらミラーナは頭を下げる。
「ヴァルト隊長! どうか!」
もう一度深くお辞儀をするミラーナ。
「……分かった。ウッドモンキー変異種の討伐隊には加えてやる。だがお前は後衛のサポート役だ。決して前には出るな」
「ありがとうございます」
再びお辞儀をするミラーナ。これで何とか本部に戻らずには済んだし、魔の森に向かう事はできる。最も実際にいるのはウッドモンキーの変異種ではなく、オークの群れなのだが。
根本的な問題の解決にはなっていないが、被害を抑えるチャンスは生まれたのだ。
「これで話は終いだ。俺も明日はワイバーンの変異種討伐に加わる。明日は早いから済む事が終わったらさっさと寝ろよ」
「はい! 失礼しました」
三度目のお辞儀をし、ミラーナは部屋を後にする。
「まさかあんなに熱い女だったとはなぁ。爺さんの血を継いでたって所か?」
ミラーナの祖父はかつて元騎士団団長だった男だ。当然ヴァルトも認識があるわけで。
「ったく、家族そろって厄介もんだぜ。あーあ、ついてねぇな俺も」
呆れた表情を浮かべるヴァルトであったが、どこか声は上機嫌であった。




