幼馴染 呼ばれる
昨日のメンテナンスすごく焦った
自分のデータふっとんだのかと
ちゃんと情報みとかないと駄目ですね
「ここがヴァルト隊長の部屋ね」
ヴァルトの部屋の前についたミラーナはふぅっと息を吐く。これから自分の上司と改めて話をするとなると緊張する。それがあのヴァルトならなおさらだ。
隊長格の一人、そんな相手と会話するのに緊張するなと言われる方が無理があるだろう。
「でも……やらないと……」
自分も隊長に話したい事はたくさんある。元々騎士団に要請の書状を送っていたし、オークの群れや変異種について。そして何よりヒューゴの事。ある意味これは話を整理してもう一度キチンと話すチャンスでもある。ごくりと息を呑む静かにドアを叩く。
「誰だ?」
「ミラーナです。今お時間よろしいでしょうか?」
「ああ、ミラーナか入ってくれ」
「失礼します」
意を決し。ミラーナは扉を開け、部屋に足を踏み入れた。
「悪いな。わざわざ来てもらって。まぁ適当に座ってくれ」
「失礼します」
目の前にいる男、この男こそ騎士団の最高戦力の一人と呼ばれているのだ。そんな相手を前にしてもミラーナは表情を変える事なく、椅子に座り、視線を相手に向ける。
「そう睨むな。別に説教するために呼んだんじゃねぇからな」
「申し訳ありません……別に睨んでいるつもりはなかったのですが」
どうやら無意識に相手を睨みつけるような目をしてしまっていたようだ。気持ちを切り替えるためにも深呼吸をし、息を整える。
「しかしお偉いさんの相手ってのは本当に疲れるな。一人称だの二人称だのいちいち気を使わなきゃいけないし初対面の相手ならなおさらだ。お前も肩の力を抜いたらどうだ?」
「私はこれが素ですので」
キリっとした表情を続けるミラーナにヴォルトは頭をかく。騎士団として仕事をしている以上、どうしても色々な人物と接する機会が出てくる。中には貴族や地元の権力者といった地位ある者たちと会話する事もある。そのため騎士団内では礼儀作法について勉強させられるのだ。
ヴァルトも隊長だけあってそういった礼儀作法を学んでいるが、当の本人はそれが苦手で少しの事でボロが出る。一人称で私と言っていたのが、何か突発的な事があればすぐに俺に変わったりといったようにだ。
「まぁいい、お前を呼んだのは改めて話を聞きたかったからだ。それに領主の屋敷に侵入していたあの黒髪の男。お前の知り合いなんだろ? その辺りを聞きたいと思ってな」
「っ!? ヒューゴはどうなったのですか?」
大切な幼馴染の名が出た事でミラーナは飛びつく勢いで、質問を投げかける。これにはさすがのヴォルトも驚いたようだ。
「お前がそんなに感情を表に出すなんてな。どうやらよっぽどお気に入りのようだな」
「ちが……別にヒューく……ヒューゴとはそういう関係ではありません!」
「へぇ、ヒューゴっていうのかあいつ」
しまったとミラーナは顔を下に向ける。このやり取りで自分とヒューゴとの関係について少なからず何ら関わりがあるという事を知られてしまったからだ。
「逃げられたよ。しかも俺の腹にでかいの一発空けていきやがった」
そう言いつつヴァルトが右手の親指を上げ、自分の腹に向かって指す。鎧を着こんでいるヴァルトだが、その腹部部分はぽっかりと穴が開いていた。
「完敗だよ。まさか一撃でこんなのをくれやがるとはな。さすがは栄光の翼の一員って所か。あの男が無能と呼ばれてるって話。今でも信じられねぇな」
「そうです! 彼は決して無能ではありません!」
これはチャンスだ。そう思ったミラーナがヒューゴについての話を切りこみ、そこに加えてこれまで自分がどうして来たかを一つ一つヴァルトに話した。
ギルドでヒューゴが追放された時の事。無実の罪を晴らすために行動を共にしている事。そして本題である変異種の情報が虚偽である事とオークの群れについての事だ。
先ほど路上で話した時とは違い、今度は部屋で一対一の状況で話をしている。ここでならより深く細かく、話をする事ができる。もしヴァルトに自分の話を信じてもらえるなら、今自分たちが抱えている問題も解決できるかもしれない。
今のミラーナにとっては唯一の希望であった。
「悪いなミラーナ。その話さすがに全部信じられねぇよ」
だが無情にも自分の話全てを信じてもらうという事はできなかった。




