幼馴染 落ち込む
予想以上に幼馴染パート長くなりそう……
主人公詐欺本当にすいません
自分でも驚くほどの声が出てしまった。爽快感半分、羞恥心半分抱えながらミラーナは頭を切り替えるために、首をぶんぶんと横に振る。
「ヒュー君は無能なんかじゃないもん」
幼馴染の彼、ヒューゴがどういう人物なのか。一緒に遊んだ事のある自分だからこそ彼の事は良く知っている。そしてそんな彼との昔の思い出。彼女にとってそれは大切でかけがえのないものなのだ。
「ヒュー君の良い所は私が良く知ってる。だから私も頑張ろうと思ったんだから……」
元々彼女が騎士になろうと思ったのは、誰かを守るために常に前線に立ち戦う祖父の姿に憧れたからだ。祖父からは騎士団ではなく、ギルドでもいいのではないかと言われたが、祖父の騎士姿に憧れていたため迷うことなく騎士団に入る道を選んだ。
それに加え、立派な騎士になりたい理由が彼女にはもう一つあった。
それはヒューゴと再会した時に胸を張れる存在となっていたい。そんな思いがあったのだ。
一緒に冒険しよう
騎士団という組織に属する事にはなったが、それでもこの言葉をミラーナは忘れた事はなかった。
騎士団に所属したからと言って国に籠りきりになるという訳ではない。時には出向という形で様々な地域に出向かなければならない事がある。
騎士団では給与が安定して支給されるため、それ目当てで入ってくる者も多くいる。そんな中で時には僻地に行かなければならない事もある出向という制度は、多くの者に敬遠されてきた。
無論自分をアピールできるチャンスでもあるので出世を狙っている者であれば志願するのだが、ミラーナも自分の見分を広げるために、出向の募集があれば迷わず申し込みをしていた。
「もしかするとヒュー君と再会できるかもしれない……。そんな下心なかったと言えば嘘になるけど」
小声でボソッと本音を漏らす。見分を広げたいという気持ちは嘘ではなかったが、それと同時に各地を回ればもしかすると幼馴染と再会できるかもしれない。そんなよこしまな気持ちも多少は持っていた。
ヒューゴと別れて数年経った後、彼の故郷の村に行った事もあったが、既にその時にはヒューゴは村を出て、出稼ぎに行ってしまっており、会う事ができなかった。
彼の事だ。きっと名を馳せる存在として活躍しているに違いない。そう思っていた。あの日までは。
無能
とある青年がそう呼ばれ、ギルドで酷い扱いを受けていた。この町に来た時も無能と呼ばれる青年に関する噂はいくらか耳にしていた。何でも栄光の翼と呼ばれる快進撃を続けるパーティー、その中に一人、温情でパーティーに入れてもらっているだけの無能がいると。それがまさかあの幼馴染だとは夢にも思っていなかったのだが。
「本当に……何でやられっぱなしだったのよあの馬鹿」
数年ぶりに再会した幼馴染。その時の思いは嬉しさ半分、怒り半分だった。自分と同じように幼馴染の彼も大きく成長し、頼もしい青年の姿になっていた。正直自分が思っていたよりカッコよくなっていた。思わずドキリとしたがそれ以上に怒りの思いが胸にこみ上げてきた。
自分が町のギルドに顔を出した時、幼馴染は事もあろうかパーティーから無能扱いされ、パーティーから追放されそうになっていたのだ。しかも当の本人の弁明も聞かず一方的にだ。
その光景を目の当たりにしたミラーナは我慢できず、栄光の翼のメンバーたちと口論になってしまった。そして彼を認めさせるために自分の身を対価にして取引を持ち掛ける事となってしまったのだ。
「でも私も人の事言えないか」
無能と呼ばれ馬鹿にされていた幼馴染の事ばかり言えない。自分自身も騎士団内において、先ほどの貴族令嬢のローナルに目を付けられ、嫌がらせを受けている。
だからこそ幼馴染と一緒に自分たちに嫌がらせをしてくる奴らを見返してやろうとした訳だが。
「でもその結果がこれなのよね……」
ヒューゴは自分の都合でミラーナの事を巻き込んだと思っている。しかし反対にミラーナもまた見返してやろうという思いのために、幼馴染を利用しているのではないかと時折思う事もあったのだ。
「個人の私情を優先する。これじゃあ騎士団失格よね」
騎士団は国や人を守るために活動する組織である。そこに所属するとなればそれ相応の意識を以って職務に取り組まなければならない。
今回の出向の目的もギルドとの交流並びに魔の森の調査である。少なくとも私情を優先させ、功績を上げる事ではない。こうして拘束されたのもある意味注意喚起の一環なのかもしれない。
「はぁ……」
正直これからどうしたらいいかのか分からない。拘束された以上、これまでと同じようにヒューゴと行動を共にする事はできないだろう。
色々考えるが答えが出てこない。あれこれ考えているうちにいつの間にか日が沈み始める時間になってきた。
「ミラーナ。ヴォルトさんが話を聞きたいそうだ。今すぐ部屋に向かってくれ」
ノックと同時にドア越しに部屋に向かえと騎士団の者から声がかかる。
「私が頑張らないと。ヒュー君ならきっと何とかやってるはず」
自分の顔を両手で叩き気合を入れる。そしてミラーナは自分が今できる最善の手を考え、ヴァルトの元に向かう事にした。




