無能 依頼する
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「うんうん。いくら君がすごいと言っても一人だと限界がある。誰かを頼るのはいい事だと……って私!?」
まさか、自分の名を出されるなどと思ってもいなかったのだろう。俺からの突然の要請に戸惑いを覚えているようだ。
「頼む! 今俺が頼れるのは君だけなんだ! 君の力を俺に貸してくれ!」
「ちょっ……ちょっと落ち着こう。気づかれるから!」
シーっと口元に指をあて静かにするよう手でジェスチャーするレイシア。どうやら自分でも気づかぬうちに大声で話していたようだ。何事かと周りにいた他の客たちもこちらに目を向けている。
「あらーもしかして告白かしら?」
「いやぁー若いわねぇ」
「男の人は成人してそうだけど相手は女の子じゃない? これってまさか……」
「いや相手は妹かもしれないわよ。って妹相手に告白って余計に」
周りにいる女性の方々が何やらボソボソと呟いている。何故恋愛方面に持っていこうとするのだろうか。しかも全く見当違いの方向に逸れていっている。女性はどうもそういう話が好きな傾向にある。
「……私成人してるんだけどなぁ……。スタイルだって悪くないとは思うんだけど……」
当のレイシアも自分の体を見ながら何か呟いている。ミラーナに負けず劣らずの美人ではあるが、あどけない顔立ちをしている事もあって、周りから少女扱いされているようだ。
「大丈夫。レイシアは美人だ。俺が保証する」。
美少女にも見える目の前の彼女に対し、俺はせめてものフォローを入れる。それを聞いたレイシアはむぅっとした表情を浮かべはするものの、特に声を出して返してくることもなかった。
「っとそれよりさっきの話なんだけど……何とか考えてくれないか?」
再び話を本題に戻し、俺は頭を下げる。流れで先ほどは見た目の話になってしまったが、それとは別のレイシアの戦闘力はかなりのものだ。
得物である刀を使いこなしつつも、氷の魔法も操れ、それを刀に乗せ威力を増幅させるという事までやってみせたのだ。その実力は本物で複数体のウッドモンキーを一撃で倒す。ミラーナと互角以上の戦いを繰り広げる。ミノタウロスですら一人で倒して見せる強さ。
もし彼女がギルドに所属しているならAランク相当の実力は間違いなくある。俺はまだ見た事がないがSランクと呼ばれる者たちにも引けを取らない可能性すらある。
本当に……見た目によらずとんでもないな……。はっきり言って化け物と言っても過言ではないだろう。
「……何か失礼な事考えてない?」
ジト目で見てくる彼女を見て俺はすぐさま顔を横に振る。
(さすがに化け物呼ばわりは失礼だったな……)
心の中でレイシアに俺は謝罪の言葉を投げかける。とはいえ俺の中でかなり評価の高い彼女。もし彼女が力を貸してくれるのならかなり心強い。というよりギルドからは相手にされず、領主や衛兵からは冤罪をかけられ、騎士団からもマークされている俺が頼れるとなれば最早彼女くらいだ。
「まさか君から依頼されるなんてね。想像もしてなかったよ」
驚きつつも、何故かニヤニヤと笑みを浮かべているレイシア。これはどうも良からぬ事を考えている顔だと俺の直感が告げている。
「俺にできる事なら何でもするから!」
俺から出せるものなんてほとんどない。とはいえ誰の手でも借りれるなら借りたいというのが今の俺の状況だ。それが魔物相手に戦えるほどの実力者ならなおさらだ。
「何でも……ね」
俺の言葉を聞いたレイシアがうーんとあごに手を当て考え始める。
「本当に何でもしてくれるのかい?」
「犯罪を起こせとかそういうのは勘弁してほしいけど。俺ができる範囲なら」
さすがにその類の命令はしてこないだろうと考えるが、あくまでそれは俺の予想でしかない。最悪、俺の今後の人生が失われるかもしれないが、それでも彼女の助けが欲しいというのが俺の本音だ。
「……一つだけ。私から君にお願いしたい事が一つだけある。もしこの条件を呑んでくれるなら君に手を貸してもいいよ」
どうやら俺の提案に興味を示してくれたようだ。だが一つだけ条件を出させてくれとレイシアが言ってくる。その内容次第で俺の今後も変わってくる。
俺はゴクリと息を呑み、彼女の続きの言葉を静かに待つ事にした。




