無能 驚く
今日から一週間
またみなさんお願いします
いざこざがあったものの、レイシアに実力を認められ、当初の予定通り情報を得る事ができるようになった。
「……穴があったら入りたい」
その分失ったものも多かったが。ミラーナは先ほどまで痴態を晒していた事に恥じらいを覚え、現実逃避していた。
「まさか騎士団最強とも言われている美人騎士様があんなに取り乱すなんてね。いやはや恐ろしいものだよ」
「忘れなさい! 今すぐその記憶から」
「ふふ……。この情報も、とある筋には高く売れそうだしそれはできないなぁ」
ミラーナが顔を真っ赤にしながら、レイシアの胸倉を掴んで揺すっているが、当の本人は微動だにせずニヤニヤと笑みを浮かべている。
「分かった。なら記憶を飛ばせばいいのね? キツイの一発入れればいいかしら?」
「早い再戦だね。いいよ、受けて」
「何言ってるんだよ二人とも! せっかく落ち着いたのに」
せっかく戦闘を中止にしたのに、ここで再び戦いが始まればこれまでの苦労が無駄になる。何やら不穏な空気が漂い始めたので、俺はすぐさま制止に入った。
「冗談だよ。さすがにそれくらい弁えてるって」
「なら冗談で人をからかうのもやめてくれないかしら?」
「分かったよ。君の秘密、黙っておいてあげるよ。…………まぁ相手次第だけど」
最後に何かボソッと呟いた気がしたが気のせいだろう。
「さて、それじゃあ話すね。この森で何が起こっているのか? 私が調べた情報。包み隠さずその全てを」
ついにレイシアの口から彼女が握っている情報が語られる。俺とミラーナはゴクリと息を呑み、話を聞く態勢を取った。
「森に住むオークたち。彼らは普段、適当にそこらをぶらついて、魔物を倒してその肉を食べてる。それは知ってる?」
「オークは知性が低いからな。相手が誰であれ手当たり次第戦って毎日を過ごしている。そんな魔物だからな」
オークは大きい体を持つ魔物で、その巨体を活かして力任せに戦うというのが彼らのスタイルだ。反面知能は低く、罠に簡単に引っかかるため、戦い方さえ分かっていればそれほど苦戦する相手ではない。
「でもそんなオークたちにも例外はある。彼らにも変異種がいて、変異種となると一気に手ごわくなる」
「オークナイトとオークメイジの事だな」
知能が低いと言われているオークだが中にも例外はある。時たまに、オークでありながらそこそこ知恵が回るものがいる。その最たる例がオークナイト、そしてオークメイジと呼ばれる魔物だ。
オークナイトは普通のオークと違い、武具を扱える知能を持っており、武具を身に着け近接戦をしかけてくる。あの巨大に加え、武器を使っての攻撃を放ってくるのは中々厄介だ。
そしてオークメイジ。ナイトとは違って武具こそ持っていないが、魔法を扱える特徴を持っている。巨体から放たれるパワーだけでなく、魔法にも警戒しないといけない魔物で、こちらもまた厄介な存在である。
「まさかオークナイトとメイジ、その二体が?」
「いるね。今日までで何回か森で見かけたから」
なるほど。オークナイトとオークメイジ、この二体が同時に発生したとなれば中々厄介だろう。しかし別の疑問が出てくる。オークナイトとオークメイジは確かに変異種と呼んでもいい存在ではあるが、飛びぬけて強いわけではない。
その強さは大目に見ても、この森で出会ったワイルドベアやキラータイガーと言ったギルドで言うBランク相当の強さしかないはずだ。
それならば警戒するほどの事ではない。
「確かにオークナイトやオークメイジの二体が出ただけならそれほど脅威じゃないだろうね」
「二体が出ただけ……って事は」
「君の予想通り。いたよ。そいつらの親玉が」
オークナイトやオークメイジ、変異種である魔物たちだが、中にはそれよりも格上の魔物が存在する。
「嘘でしょ!? まさかいたの!? オークジェネラルが!」
ミラーナの口から出てきた魔物の名。オークジェネラルという魔物。それは変異種である、オークナイトやオークメイジが鍛錬を積む事によってさらに上位の存在となった魔物と認識されている。
強さもそうだが、何より恐ろしいのはオークジェネラルには知性がある。それも知性のないオークたちの動きを統率できるほどの。過去にオークジェネラル率いるオークの大群に一国が滅ぼされたという噂もあるくらいだ。
知性のないオークたちを統率する存在。まるで軍隊の指揮をとっているかのような振る舞いをする事からジェネラルと呼ばれるようになったのだ。
「オークたちを引き連れて森の奥に入っていく姿を見たから間違いないよ。しかもかなりの数」
「となると森の奥でオークたちが集まって何かしら策を立ててるとか?」
「策……か。確かにオークジェネラルはオークと違って知性はあるけど。でも作戦会議みたいな真似するかな」
オークジェネラルに知性があるとはいえ人のように、作戦会議をするとは思えない。というよりオークたちが作戦会議をしたとしてもナイトやメイジクラスならともかく、ただのオークが作戦を理解できるとは思えない。
「それに、もしオークジェネラルがオークを引き連れて森の奥に入ってきたとしても他の魔物がそれを許さないだろ? 縄張りに侵入してきたオークたちを放置するとは思えないし」
「私もそこが引っかかったんだよねー。オークジェネラルはナイトやメイジたちよりも強いとは思うけど、それよりも強い魔物は森にいるしね。この間なんてミノタウロスと遭遇したし」
「ミノタウロス!?」
牛の頭を持つ巨人の魔物ミノタウロス。大きな斧を得物とし、オークを遥かに凌ぐ力を持っている。
「あの時はもう少しだったんだよ。もう少し君たちが引き上げるのが遅かったら私じゃなくて君たちと出会ってたかもしれないのに」
「あの時って?」
「ほらあれだよ。君たちがワイルドベアやキラータイガーと戦っていたあの日。あの時、君たちの事見てたからね」
「「ええっ!!」」
突然の予期せぬ発言に俺とミラーナはは驚きの声を上げてしまった。




