恩返しという名の助け
200話まであと1話!!
これはマズい事になった。まさか新領主であるレジオンがもう動き出しているとは考えてもいなかった。
「とにかくすぐに動かないとマズいな……」
俺は部屋に戻り、アルシャに衛兵たちから聞いた話をそっくりそのまま説明を行った。
「くっレジオンめ! 先手を打ってきたか! このような卑怯な真似を!」
「まずはどこか身を隠せる所に避難した方がいいと思う。ここにいたらすぐ見つかるかもしれない」
先ほどの衛兵との会話は宿の店主にも聞かれている。当然、アルシャが宿泊しているのを把握しているため、その記憶を思い出されるとすぐさま通報されてしまうだろう。
「……仕方ないか。世話になったな」
そう言ってアルシャが部屋を出ようとする。
「待ってくれ。俺も行く。町中衛兵や騎士団がうろついている。一人で行くのは危険だ」
「駄目だ。お前の事は巻き込めない。ここから先は私一人で行動する」
「けど」
「奴が、レジオンが狙っているのは私だ。私と一緒に行動していたらお前もタダでは済まなくなる」
そう言いながらアルシャがぐっと拳を握りしめている。
「…………この町にある一人の男がいました」
「?」
「その男は無能と呼ばれ、つらい日々を過ごしていました」
「一体何を?」
「しかし、無能と呼ばれる男の前に一人の女性が現れました」
「一体何を言っている! 分かるように説明してくれ!」
アルシャの言葉を無視し、俺は言葉を続ける。
「その女性は何の得にもならないのにその無能を助けてくれました。そのおかげで無能は救われ、新しい日常を過ごせるようになったのです」
「いい加減に!」
「これ……俺の事なんだ。毎日無能って呼ばれてさ、ゴミみたいに扱われて、どこにも居場所が無くて……本当につらかったんだ」
「しろ……って……えっ?」
俺の言葉を聞いたアルシャが困惑の表情を浮かべる。
「けどこんな俺の事を助けてくれた人がいたんだ。その人には本当に感謝してる。だから俺も……その人みたいに誰かを助けられたらって思ってる」
「ヒューゴ……」
「それに……"もう巻き込まれてる"。アルシャを連れて逃げる姿を見られているからな」
気絶したアルシャを就任式の会場からここまで運ぶにあたって、誰にも見つからずにという訳にはいかなかった。先ほどの衛兵たちに対しては適当に誤魔化す事ができたが、次はそうはいかないだろう。そうなれば俺も彼女の共犯者として拘束される事間違いなしだ。
「アルシャはまだ町の事全然分かっていないだろ? どこに行くにしても俺がいた方が役に立つと思う。だから俺の事を使ってくれ」「……分かった。そこまでいうならその好意ありがたく受け取らせてもらうぞ」
「よし! それじゃあ早速出発しよう。まずは安全に身を隠せる所を見つけないとな。そこで次の作戦を立てないと」
衛兵たちが町をうろついている以上、この宿が安全とは言い難い。俺とアルシャは作戦会議を行えるための場所に移動する事にした。
「ヒューゴ…………本当にありがとう…………感謝する……」
ボソリとアルシャが感謝の言葉を呟くが、俺はそれを聞き取る事ができなかった。
宿を出た後、俺とアルシャはまず裏路地に向かう事にした。アルシャには念のため、髪色を変える液体を使ってもらっている。女性にとって髪は命よりも大事な物であると言われる事もあるらしいが、アルシャは嫌な顔をせず了承してくれた。
「裏路地は人通りが少ない。身を隠すならうってつけだ」
「だが裏路地は進入禁止ではなかったか?」
「今更罪状が一つ増えた所で何でもないだろ?」
「やれやれ。随分乗り気じゃないか」
俺の言葉を聞いたアルシャが笑っている。どうせ捕まれば碌な目に合わない。なら徹底すべきである。
(何かレイシアの影響を受けているような……)
本人が聞けば怒るであろう言葉をふと頭に思い浮かべる。
「よし、それじゃあ早速」
「貴様! そこで何をしている!」
裏路地へ向かおうとした俺たちの前に二人の衛兵が姿を現した。