アルシャの過去
「う……」
呻き声と共に一人の女性が目を開く。
「ここは……」
辺りをキョロキョロと見渡す。そこは見覚えのある部屋だった。昨日自分が宿泊した宿と全く同じ景色が目の前に映ったのだ。
「一体どうして……何がどうなっている」
自分の身に何があったのか、それを確認するためにこれまでの事を振り返る。新領主の就任式を見に行った事。新領主であるレジオンと対峙し戦闘を繰り広げた事。一人の女騎士に自分の邪魔をされた事。そして後頭部に痛みが走りそのまま気を失った事。
これらを思い出したのだ。
「そうだ……私は……」
「気が付いたみたいだな」
部屋の扉がガチャリと開けられ、一人の男が姿を現す。
「っ!? お前!?」
「手荒な真似をしてごめん。君を止めるにはああするしかないと思って」
そう。この女性は目の前にいる男に背後を取られ、手刀を浴びせられたのだ。
「とはいえいきなり相手に斬りかかるような真似をした君にも非があると俺は思っている」
「それは……」
「一体どういう事なのか、説明してくれないか?」
男の問いに女性は沈黙を貫く。ただただ静かなまま時間だけが過ぎ去っていく。
「分かった。説明できないなら」
「……いや。ここまで来た以上、黙ったままという訳にはいかないだろう」
どうやら女性は覚悟を決めたようだ。
「だがこれを話したらお前にも迷惑がかかるかもしれない」
「けど聞かないと何も分からない。"手助けしたい"としてもね」
「……ふっ。どうやらお前は相当お節介者のようだ」
すぅっと深呼吸し、アルシャは俺に話をしてくれる事となった。
アルシャはとある町の領主の娘として生まれ、父と母、そして自分と一人の妹の四人で、穏やかな日々を過ごしていた。そんなある日、アルシャの父はとある魔物を討伐するため、兵を率いて出かける事となった。結果として討伐こそできたが、アルシャの父も大怪我を負ってしまったのだ。
その怪我のせいで領主としての仕事ができなくなってしまったのだが、ある人物が代わりを務めさせてくれと懇願してきたのだ。
「まさか……その人は」
「ああ、その人物の名はレジオン。父上の……弟にあたる人物だ」
普段のレジオンは聡明ながらも謙虚で、陰でアルシャの父を支えていた。自分や妹が小さい時にはお菓子をくれたりするような人物でもあった。
アルシャの父もレジオンになら代役を任せてもいいだろうと考え、領主としての権限を一時的にレジオンに譲渡したのだ。
だがそれが過ちであった。
レジオンは彼なりに領主としての仕事をキチンと行い、住民たちからの評判も良かった。しかし彼には裏の顔であった。領主としての仕事をしながらも、裏で領地を乗っ取るための手続きを進めていたのだ。
気が付いたときには既に手遅れで、アルシャたちは領地から出ていかなくてはならない状況になってしまった。その上財産も全て取られてしまい、家宝である剣までもレジオンの手に渡ってしまった。
それからが大変で、アルシャの母は父の治療費を稼ぐために売り子の仕事を、妹は家事や父の看病を、そしてアルシャは魔物討伐をして金を稼ぐという生活が始まる事となったのだ。
「そうだったのか……」
「あの男は………ずっと機会を狙っていたのだ! 己の欲の為に! それに気づけず父上は……私は……」
グッと拳を握りしめるアルシャ。そんな彼女の目から涙がこぼれ落ちる。話を聞いていると、事が起こるまではアルシャもレジオンの事を慕っていたように思える。レジオンの裏切り行為はそんな彼女を傷つける結果になってしまったのだ。
「だから私は取り戻さなくてはならないのだ。父の名誉を、誇りを、そして私たちの生活を」
彼女の悲痛な声。それが染みるように俺の心に入り込んできた。
ちょっと簡潔にしすぎたかな……
機会があればまた別で投稿するかも