明日に備える女性
おはようございます
今週も頑張る!
(そう来るか!)
偶然か必然か、どうやらアルシャが追っているという男と、明日やってくる領主は同一人物のようだ。そして凄腕の護衛というのは間違いなく騎士団の隊長の事に違いない。
「どうした? 何やら思う所があるようだが」
俺の表情を見たアルシャが疑問の声を投げかけてくる。別の隠すような事でもないだろう。頭の中で整理した情報を、俺はアルシャに対して説明する。
「なっ!? まさかそんな……」
俺の言葉を聞き、アルシャも驚愕の表情を浮かべている。まさか騎士団が、それも隊長クラスの者が関わっているなど思ってもいなかったのだろう。
「中々面白い展開になってきたね」
パフェを食べながらレイシアが笑みを浮かべている。面白いどころか正直厄介事が起きそうな気がしてならない。
「就任式は明日の朝から開催されるみたいだね。誰でも見に行けるから、運が良ければ接触できるんじゃないかな?」
「誰でも……という事は私も参加できるのか?」
「問題ないと思うよ。というより一般人が領主様を直接見られるのはそれくらいの時しかないしね」
レイシア曰く、明日の朝から新領主誕生のお披露目会があるようだ。護衛の者ならともかく、普通の一般人は領主と顔を合わす機会がほとんどない。面会の理由を述べ、それが承認された上で、ようやく時間を取ってもらう事ができるのだ。
「アルシャが面会を希望しても会えるのは相当先になると思う」
「なら明日の機会を逃す訳にはいかない……という事になるな」
普段からこの町に住んでいる者ならともかく、いきなり他所からやってきたアルシャが面会を申し込んだとしても、おそらく通らないだろう。接触するとなれば、チャンスはおそらく明日しかない。
(まぁ俺は強行突破して乗り込んだけど……)
苦い記憶がよみがえる。オークの群れ騒動の時、俺は強引に屋敷に乗り込んで領主に話をしにいった。最も聞き入れてもらう事はできず、騎士団の者たちに追われる羽目になったのだが。
「了解した。明日の就任式、私も参加させてもらおう」
「俺も参加するよ。どんな人なのか気になるし。レイシアはどうするんだ?」
「私はパスしようかな。お偉いさんの話なんて聞いてるだけでも頭が痛くなりそうだし。適当にそこら辺をぶらつく事にするよ」
てっきりレイシアも参加するものだと思っていたが、予想外の答えが返ってきた。ともあれ、明日レイシアが参加しないのであれば、少なくとも就任式で激しい争いが起こる事はないだろう。
「…………何か失礼な事考えてない?」
ジト目でレイシアがこちらを見つめてくる。またこのパターンか。どうもからかわれているような気がするが、とりあえずないとだけ答えておく。
「それじゃあアルシャ。せっかくだし明日は一緒に見に行こうか?」
「いいのか?」
「これも何かの縁かもしれないし。君が良ければだけど」
「むしろこちらからお願いしたい所だ。是非よろしく頼む」
こうして俺とアルシャは明日、一緒に就任式を見に行く事となった。
「あれ? いいのかい? あのおっかない幼馴染に何も言わなくて?」
「ミラーナにか? そりゃあ、ミラーナにも声をかけたかったけど……。忙しいだろうし、明日も騎士団の仕事があるだろ?」
本当ならミラーナも誘いたい所であるが、彼女も騎士団所属の身。俺とは違ってかなり忙しいはずだ。明日の就任式でも、おそらく何かしらの仕事をしているだろう。
「そういう事じゃないんだけどね…………。これは幸先大変だ」
ボソリと自分にしか聞こえない声でレイシアが呟く。ともあれ、明日の予定は決まった。後は何事もなく平穏に済めばいいのだが。
「待っていろ……レジオン」
グッと拳を握りしめ、考え込むアルシャの姿に、俺は気づく事ができなかった。