物を探す女性
今週も早かった……
俺とレイシアは魔の森で助けた女性と共に町へ戻り、店で食事を取っていた。彼女も俺たちと同じように腹を空かしていたらしく、店に入るやすぐに様々な料理を注文していた。
「迷惑をかけてすまなかった。本当にありがとう」
改めて女性から礼を言われる。疲労の原因もどうやら空腹によるものだったようで、食べ物を胃に入れる事で元気が出てきたようだ。
「礼代わりと言っては何だが、好きなものを注文してくれ。無論、代金は全て私が払おう」
「本当!? それじゃあ遠慮なく。この超特盛パフェ、前から気になってたんだ」
「おいおい……」
奢りという言葉を聞いたレイシアが、ここぞとばかりに注文している。さすがに俺は苦言を呈するが、本当に気にしなくてもよいと言われたため、好意に甘える事にした。と言ってもレイシアのような注文の仕方はできなかったが。
「ところで君は一体」
「これは失礼した。自己紹介がまだだったな」
キリっと表情を引き締め、女性がこちらに顔を向ける。
「私の名はアルシャ。訳あって旅をしている」
「俺はヒューゴ。一応この町で冒険者をやっている」
「私はレイシア。よろしく頼むよ」
「ヒューゴ殿にレイシア殿だな。こちらこそよろしく頼む」
こうして俺たちはアルシャと名乗る女性と改めて挨拶をかわす事となった。ちなみに殿付けされるのは堅苦しかったため、互いに呼び捨てで名を呼び合う事にした。
「ところでアルシャはどうしてこの町に? というよりどうして魔の森にいたんだ?」
「それも"一人"……でね」
俺とレイシアがそれぞれが思っていた疑問を口に出す。魔の森にいた事もそうだが、たった一人でいた事も気になる。
「そ……それは……」
質問を受けたアルシャが顔を下に向け口ごもる。
「ごめん。いきなり詮索何て印象悪いよな」
「いや気にしないでくれ。二人が言う事も最もだ。立場が逆なら同じ事を質問していたと思う」
アルシャがふぅっと息を吐くと、何かを決心した顔つきをし、口を開く。
「実は探し物をしていてな。それを持っている者がこの町に訪れるという情報を手にいれたんだ」
「探し物?」
「ああ、それのために早く町に行きたくて、あの森を通る事にしたのだが……あの様だ……。雇っていた護衛も途中で逃げ出してしまったしな」
そう言いつつ自嘲気味にアルシャが話す。どうやらあの状況は意図して作り出したものではなかったようだ。一人ではなく護衛を雇った上で森を抜けようとしたが、魔物に襲われた事でああなってしまったのだろう。
「それは災難だったな。それで、目的の人物っていうのは?」
「レジオンという名前の男なのだが聞いた事はないか?」
この町でそれなりに活動しているが、聞いた事のない男の名だ。レイシアもその名に心当たりが無いようで首を横に振っている。
「そうか……」
「ごめん。役に立てなくて」
「謝らないでくれ。あの窮地を救ってくれた君たちには本当に感謝しているんだ。そんな君たちに謝られては私の立場がない」
謝る俺の姿を見たアルシャが気にするなと言ってくる。
「もしかするとまだこの町を訪れていないかもしれない。何でも領主になるとか何だとかで色々と準備をしているという噂があるようだったし」
アルシャのさりげない発言。その中で気になる単語が出てくる。
「それに……何やら凄腕の護衛を引き連れているとかいう話もあったな」
領主。凄腕の護衛。どこかで聞いた事のある言葉が俺の耳に入ってくる。
「あの男……。父上から奪っていただけでは飽き足らずあのような……。絶対に許せん……」
アルシャが何かを呟きながらギリッと歯を食いしばっている。どうやらレジオンという男とは何かしらの確執があるようだ。
「なぁアルシャ。その護衛の人の名前は知らないか?」
「護衛の者の名前までは知らない。だが噂だと"騎士団の者"だとは聞いている。信じたくはないがな」
ここまで似通った偶然はあるだろうか。今日の朝、レイシアから聞いた話と"ほぼほぼ"一致している。
領主の護衛としてやってくる騎士団の隊長、ウィンダ
護衛を引き連れてやってくる領主、レジオン
この二つがキレイに繋がったのだ。