幼馴染とデート part1
幼馴染のターン!
俺は急いで出かけるための準備を終え、外で待つミラーナの元に向かう。
「ごめん。お待たせ」
「気にしなくていいわ。元々私が早く来たのが原因なんだし」
特に気にした様子を見せないミラーナではあったが、どこかソワソワしている。ふと服装を見るといつもの騎士の格好ではなく、私服を着ている。美人のミラーナに似合った格好で、見惚れてしまいそうになる。
「コホン」
色々考えているとミラーナが咳払いをする。その音を聞き、俺もハッと意識を覚醒させる。
「それで……どこにいくのかしら?」
「そうだな……」
今日一日付き合ってくれとは言ったものの、行く場所は決めていなかった。昨日はレイシアから色々要望があったため、適当に町をぶらぶらと歩き回ったのだが。
「……どこか行きたいところある?」
一瞬の沈黙が場を包む。俺の言葉を聞いたミラーナがはぁっとため息を吐きながら肩を落とす。
「どこかって……決めてなかったの?」
「いや、その……。ミラーナはどこかに行きたい所はないかなって」
昔は適当に外に出て日が暮れるまで遊んだりはしたが、さすがにこの歳になって昔と同じという訳にはいかないだろう。
「そうね……。なら町を案内してもらおうかしら」
「町を?」
「この町に来たの初めてだし、色々見たいなって」
どうやらミラーナもまたレイシアと同様、この町を案内してもらいたいようだ。
「それと……あなたの武器を見繕うものいいかもしれないね」
「俺の?」
「オークエンペラーと戦った時、最後は私の剣を使ったでしょ? 今後の事を考えて、一本くらい剣を持っていてもいいと思うの。昔一緒におじい様の訓練を受けてたし、使えるでしょう?」
ミラーナの言葉を聞いた俺が苦笑いする。ミラーナの言うおじい様とは、オルディアと呼ばれる老人の事で、ミラーナの祖父であり、元騎士団の団長という肩書を持つとんでもない人物だ。
(かなりしごかれたからな……)
孫思いの優しい老人だったが、剣の鍛錬をする際は一変。とてつもなく恐ろしい鬼教官となるのだ。村にいた時も、元騎士団団長の指導を受けたいという事で外から色んな者が訪れていたが、全員逃げ出すくらいであった。
無論、俺も例外でなく、この程度ではミラーナをやれんなどと言われながら、恐ろしい指導を受けたものだ。とはいえそのおかげで剣の振るい方を体が覚えており、オークエンペラー相手にも剣を振るう事ができたのだが。
「とりあえず、町を回りつつ、武器屋があったら覗いてみようか。武器なら多分ドルトンさんの所が一番良いのがあると思うけど」
「決まりね。それじゃあ、エスコートよろしく」
先ほどは失望させてしまったが、ここから何とか挽回せねば。そんな思いを胸に抱く。
「ヒュー君とデート……。ヒュー君とデート……。ヒュー君とデート……」
何かミラーナがブツブツと呟いている気がしたが、おそらく俺の気のせいだろう。気にしないようにし、俺はミラーナと共に町を回る事にした。
「何か騒がしいな……」
町を回り始めてすぐ、何やら町がざわついている様子が目に映る。ギルドの冒険者や町の住人たちが何やら話し込んでいる。
「おい、聞いたか」
「ああ、あれだろ。栄光の翼のドヴォルが借金しまくってるって話」
「そうそう。Aランクパーティの肩書を使って好き勝手やってるらしいな」
「だがその栄光の翼も、昨日謹慎処分を受けたらしいぜ」
誰が言いふらしたのか、昨日のギルドで起こった件が既に噂になっている。ドヴォルが借金をしているという話は初耳だったが。
「んでこのままだと返済されないかもしれないから店側もついに動き出したんだと」
「ついに集金されるってわけだ。ざまぁねぇな!」
「はっ! 俺は前からあいつの事が気に食わなかったんだ! いい気味だぜ!」
ミラーナと町を回り始めて早々、何やら不穏な雰囲気が漂い始めていた。