無能の誘い
週末ですがコ〇ナえげつないですね
皆様体調にはお気をつけ下さい
(落ち着け……昨日の事を思い出すんだ……)
きっと思考力が鈍っているのだろう。まだ寝ぼけているのかもしれない。そんな事を思いながら俺はこれまでの事を振り返る。確か昨日はヴァルトにミラーナへの伝言を依頼して、宿に戻ってから食事を取って、風呂に入って、それから普通に就寝したはずだ。
そして今日を迎え、とりあえず身だしなみを整え、この後どうしようかと考えていた最中だった。
「どうしたの? 大丈夫?」
聞き間違えようのない幼馴染の声が耳に入ってくる。一瞬夢かと思い頬をつねるが普通に痛みを感じる。
(って事は現実なんだな)
「って何でここにいるんだよ!」
朝一番に俺の声が辺り一帯に響き渡る事となった。
「全く……。人の事を呼んでおいて、会うなり叫ぶなんて失礼じゃないかしら?」
そのまま話を続ける訳にもいかなかったため、とりあえず俺はミラーナを自分の部屋に招き入れる。当の本人であるミラーナはジロッと冷めた目でこちらを睨んでくる。
「いや……だって……あの」
まだ頭を整理できていないためか中々言葉が出てこない。
「仕事が終わるのは早くて今日中で、時間が取れるのは明日以降って聞いてたから……。それが今日の朝に来るなんて普通は考えられないだろ!」
しかしこのまま黙っていても、ミラーナから冷たい視線を向けられるだけ。俺は何とか言葉を口にし弁明する。
「確かに驚いたわ。昨日、ヴァルト隊長から急に話を聞かされたし。……あなたから呼ばれてるって聞いて必死で仕事を終わらせたんだから……」
喋るミラーナの声が徐々に小さくなり、最後の方は何を言っているか聞き取れなかったが、何はともあれ俺が聞かされていた予定よりも早く自分の仕事を終わらせたようだ。
「それで話って何? 急に呼び出したって事はそれなりの事……よね?」
「ああ……実は……」
とここで俺は口を閉じる。自分の思いをここで伝えるのは簡単だが、いきなりそれを言ってもいいものだろうかと自問自答する。
(レイシアからも状況は大切だって言われたしな……)
自分が抱えている思いを口に出した時も、レイシアと町を回って色々と楽しんだ上での事だった。さすがにそれをそのまま再現という訳にはいかないだろうが、話を切り出す上で自分にできる事もきっとあるはずだ。
「ミラーナ……」
俺は改めてミラーナに向かって視線を投げかける。
「今日、俺と付き合ってくれないか?」
ゴクリと息をのみ返事を待つ。ミラーナが一瞬驚いた表情を浮かべるが、すぐさま落ち着きを取り戻す。
「急に呼び出したかと思えば……要件はそれ?」
はぁっとため息を吐きながらミラーナが顔を下に向ける。
(やばい……怒らせたか? いきなり付き合えと言われたらそりゃ怒るか……)
表情が見えないためどう思っているかは分からないが、さすがに率直に言い過ぎたかと後悔する。だが口に出して言ってしまったものは取り消す事はできない。
「いきなり言われても無理だよな……。ごめん忘れ」
「いいわよ別に」
やってしまったと後悔していた俺に対し、意外な返答が返ってくる。
「いいのか?」
「いきなり言われたのは驚いたけど問題ないわ。今日一日空けてあるし」
俺はほっと息を吐く。断られたらどうしようかと思ったが、その心配は杞憂に終わった。
「その代わり、エスコートはしっかりしてもらうわよ」
「もちろんだ。準備をするからちょっとだけ外で待っていてくれ」
ミラーナには部屋を出るようお願いし、俺はすぐさま出かけるための準備に取り掛かる。一時はどうなる事かと思ったが、とりあえず話を切り出すためのきっかけづくりは何とかできそうだ。
(よし。俺も男だ! 覚悟を決めるぞ!)
そう決意し、拳をグッと握りしめる。
外に出たミラーナもまたグッと拳を握りしめていたのだが、それはまた別の話である。