無能の望み
自分が思っていた以上に色々と溜まっていた。我慢を強いられていた。だが声を出すと。それらが一気にまとめて吐き出され、気持ちが楽になっていく。
「ありがとうレイシア。すごくスッキリした。目が覚めた気分だ」
改めて本当の自分と向き合えた気がする。その事に対し俺はレイシアに感謝の言葉を投げかける。
「うんうん。そう言ってもらえたなら何よりだ」
レイシアもどこか満足げな表情を浮かべている。今日一緒に町を回ろうと誘ってくれたのは、俺に気を遣ってくれたからなのだろう。突然だったため、驚きこそしたものの、充実した時間を過ごす事ができた。
「だけどよくよく考えてみたら。私と騎士の彼女との立ち合いで横やりを入れたり、鎧を着たオークを斬ろうとした時に止めようとしたり、結構君の素が出てた気がするね」
「あんなの黙って見れられなかったし……仕方ないだろ」
確かに彼女の言う通り、咄嗟の時には考えるよりも先に、声や体が動いていた気がする。おそらく自分の本能がこうしたい、ああしたいというのをすぐさま感じ取ったのだろう。栄光の翼に長い間いた事で、そういった思いを知らず知らずのうちに押し殺していたが、彼らと別れた事で解放されたのだ。
「けど"俺に気づかせたい"だけだったら素直に言ってくれれば良かったのに」
「分かってないなぁ。こういうのは状況が大切なんだよ! 状況が!」
口で伝えてくれればすぐに気づけたのにと思わなくもないが、確かにレイシアの言い分も一理あるだろう。ただ注意されただけだと今みたいに自分の思いを表に出せたかと言われると正直微妙である。その点でもレイシアにはやはり感謝すべきだろう。
「それで……この後はどうするんだい?」
「……ミラーナと話そうと思う」
せっかく再会できたというのにこのままだと離れ離れになってしまうだろう。ミラーナの事情を考えると、自分が身を引くのが一番であるというのは分かっている。
(けど俺は……)
まだ一緒に冒険したいし、色々なものを見て回りたい。それが自分の願望であった。
「多分、彼女も同じ事思っているんじゃないかな?」
「ミラーナが?」
「さっきギルドで別れた時、どこか暗い表情をしてたしね。君ともっと一緒にいたいけど色々な事があるからそうはいかない。そんな事を考えているんじゃないかな?」
あの時の光景をふと思い返す。言われてみると別れの言葉を告げられた時、どこかぎごちないように見えた気がする。あくまで自分の勘違いでなければの話だが。
「女の勘って奴だけどね。グイっていっちゃえばいいんだよ。グイって」
「グイって……」
「そうと決まれば……そら行ってきなよ!」
レイシアに背中を押される。今からでもミラーナの元に行き話してこい。そう彼女は言っているのだ。
「分かった。俺の思い伝えてくる。ミラーナがどう思ってるかは分からないけど、後悔だけはしないようにするよ」
「良い知らせを期待してるよ。これで貸し二つだからね」
どうやら今回の件も貸しのようだ。とはいえオークエンペラーの件といい、レイシアにはかなり助けてもらっている。いつかはそれも返さなければならないだろう。心の中で彼女に感謝しつつ、俺はミラーナが今寝泊まりしている騎士団が借り上げている宿屋に向かう事にした。
「さてと……私も少しお仕事をしようかな」
町での散策を楽しみながらも、レイシアは周りの様子を確認していた。昨日、今日で変異種の件や栄光の翼の件絡みの問題が発生したからか、ギルドの者たちだけでなく、騎士団の者たちを含む、色々な者たちが町を回っているのを目にしていた。
(彼ら以外にも面白そうな人も見かけたし、気を付けた方がいいかもしれないね)
自分が見た人物の中で、ただものではなさそうな人物がちらほらいた。今の所、争いにはならなさそうだが、警戒するにこしたことはないだろう。
(何はともあれ、情報だけは仕入れておいた方が良さそうだ)
オークの群れの件や栄光の翼の件が解決したというのに、また何か起こるかもしれない。ともあれ、相手がそれ相応の強者であればこちらも"全力で戦う"事ができる。
(オークエンペラーとは戦い損ねたけど……。"次"は期待できるかもね)
これから先の事を考えながら、レイシアは町を見回るために姿を消すのであった。
レイシアパートいったん終わりです