無能の本音
「はーー楽しかった」
レイシアがグッと背伸びをする。
「楽しんでもらえたなら良かったよ」
あの後、町を歩きまわり、様々な店を見て回った。気が付くと既に夕暮れ。日が沈み始めていた。
「ヒューゴは全然疲れていなさそうに見えるけど?」
「まぁ……。フォールたちに散々コキ使われていたからな」
普通の人なら疲れを感じる場面でも、自分の事となれば別であった。何せ栄光の翼にいた時にありとあらゆる事をさせられてきた。そうでもしないと自分はパーティに貢献できないと考えていたからだ。
フォールたちは探索を終えて町に帰ってきた時でも、酒場に行ったり、風呂に入ったり、自分たちの疲れを癒す行動を取っていた。しかし自分だけは素材の換金やら、ギルドでの手続きやら雑用を最後までやらされた挙句、酷い時は宿に泊めさせてもらえず、野宿させられる事もあったのだ。
「そっか。けどこれからはもう自分の好きに生きていいんだ。まだ若いんだし楽しまないと」
「ははっ、レイシアに言われると何か変な感じだな」
まだ若いというが当のレイシアも自分と同じくらい、もしくは年下くらいだろうにと心の中でツッコミを入れる。あどけない顔立ちをしているため、見た目だけなら少女に見えなくもないのだ。そんな事を考えていると、自分でも知らないうちに思わずクスっと笑ってしまう。
「あっ笑ったね。そうそう。それが見たかったんだよ」
俺が笑った姿を見たレイシアがうんうんと頷く動作を取る。
「それに……私に遠慮してたでしょ?」
「遠慮?」
「何というか……。ヒューゴってあまり自分の思いを表に出さないよね?」
スッと真剣な表情をしたレイシアが俺に言葉を投げかけてくる。
(自分の思い……か)
確かに昔は自分の考えや思い、意見を主張していたような気もする。しかし気が付けば自分は無能と呼ばれるのが当たり前で、意見しようものなら当然のように否定されるのが日常であった。時には偉そう、生意気と言われ理不尽な目にあわされた事もあった。そんな生活が長く続いた事で、知らない間に自分の思いを表に出そうとしなくなったのだ。
「あんな奴らと長い間パーティを組んで耐えて我慢して、ヒューゴは本当に頑張ったと思う。君の努力は間違いなく本物だ。私が保証するよ」
「レイシア……」
彼女の言葉が胸に刺さる。
「オークエンペラーを倒して、英雄になって、彼らを見返して……君はもう自由だ。栄光の翼何てなくても鳥みたいに自由に飛べるんだ。だからもう"我慢"しなくてもいいんだよ」
言葉を一つ一つ受け取るたびに胸が熱くなる。どこかで諦めていた。耐えるしかないと思っていた。つらかった。
(そうか……もういいのか……)
これまで本当に理不尽な目にあってきた。だがその負の連鎖を断ち切り、自分の足で歩ける時がきたのだ。
(もう……我慢しなくていいんだな……いいんだ)
いつの間にか頬が濡れている。それが自分の目から出た物によるものだと気づいた時には、溢れるように流れていた。
「っ!? ご……ごめん!」
今の自分の姿を見られている事に羞恥を感じ、何とか目を拭い止めようとするが、溢れ出た物は中々止まらない。
「恥ずかしい事じゃないんだしいいじゃないか。どうしてもっていうならハグでもしようか?」
「……それこそ恥ずかしいから遠慮願おうかな……」
ここでハグされるには抵抗があった。俺が自分に溜まっていたものを全て流し出すまで、レイシアは静かに見守っていた。
「ありがとう。もう大丈夫だ」
まだ目が赤くなっているかもしれないが、とりあえずはスッキリした。本当に気分がスッキリし、今までの自分とは違うくらいに感じる。
「さてと、それじゃあ生まれ変わったヒューゴ君に質問をしよう」
レイシアがこちらに視線を向けてくる。
「このままだと君の幼馴染は帰ってしまうでしょう。本当にそれでいいのかい?」
改めてレイシアに質問を投げかけられる。先ほどまでの自分なら、相手の意思を尊重し、自分の思いを押し殺していただろう。だが今は違う。少しくらい我がままを言ってもいいのではないか。少しくらい私欲を出してもいいのではないか。そんな思いが俺の胸を駆け巡る。
「俺は……」
スゥっと息を吸い込む。
「俺はまだミラーナと一緒に冒険したい! 昔のように色々な所を回って! 遊んで! せっかく会えたのにまた別れるなんて……」
さらに深く息を吸い込む。
「絶対に嫌だ!」
自分の胸中の思いを声に出した。
ざまぁしたものの
残っている課題が……というのがこの章のポイントになってます
上手く書けるか分かりませんが、皆様に楽しんでいただけるよう頑張りますのでお願いします